『ドラえもん』のジャイアンが映画ではかっこいい理由を考察してみた

「ジャイアンは映画だとかっこいい」「いいやつになる」…もはや『ドラえもん』映画のお決まりネタともいえるこの現象ですが、一体何故なのでしょうか。原作やアニメと映画のセリフ・シーンを見ながら、大人の目線でジャイアンというキャラについて考察しつつ、独自に結論を導きだしてみました。

ガキ大将の代表・ジャイアン

のび太のクラスメイト・剛田武


出典:ドラえもんチャンネル公式‏Twitter

藤子・F・不二雄の作品、『ドラえもん』に登場するジャイアンこと剛田武はのび太のクラスメイトで、「ガキ大将といえばこの人」の代表と言い切ってもいいほどのキャラです。乱暴で自己中、常に自分の気にいるように世界が回っていないと気が済まない性格で、特に、弱いのび太を標的にしていじめる光景が作中でよく見られます。

「歌が好きなのに、超絶下手である」という特徴がよく描かれます。原作漫画などでは「ボエ~」とか「ホゲ~」という擬音で描写されることや、人体にまで重大な被害を及ぼすことからとんでもない歌声なのだなと想像できるわけですが、2005年からたてかべ和也に替わって現在も声優を務める木村昴はとても歌がうまい人だそうです(そしてモデルを務めるほどのイケメン)。

ジャイアンのあだ名の由来って?

ジャイアンというあだ名の由来には、「大きい」「巨人」という意味の「ジャイアント」からとったもの説や、「ジャイ子のあんちゃん」の略だという説など、諸説ありますが、本当の由来については特に公式から示されているというわけではありません。個人的には、ジャイ子が本名ではないことを考えると、後者よりは前者の由来のほうが「らしい」ように思います。

キャラとしては「悪役」な立ち位置のジャイアン。でも連載開始から、そしてアニメ放映開始から長い年月が経った今でも『ドラえもん』という作品には欠かせないキャラなのは何故でしょうか。それはそんな彼にも「イケメン」なところがあるからなのです。

原作・アニメにおけるジャイアンは粗暴な性格が強調される

名言「いつ返さなかった!?永久に借りておくだけだぞ」


出典:ドラえもんチャンネル公式‏Twitter

原作漫画およびアニメでのジャイアンは、エピソードの中で大体、のび太がドラえもんの道具を頼らざるを得ない状況を作り出す原因となるように描かれていることが多いです。つまり、のび太がジャイアンにいじめられる→ドラえもんに頼る→道具が登場する。このパターンが多いわけです。

ジャイアンの自己中的あるいは自分勝手で乱暴なセリフは色々ありますが、特にこの、コミック第8巻に収録されていた「とう明人間目ぐすり」でのセリフは、「名言」として今でも語られることが多いセリフです。

のび太がクラスメイトのズル木くんが持っている透明人間の本を持っているメンコの全てと引き換えに借りようとするのですが、それを横からジャイアンが強引に取ってしまいます。ズル木くんは心配になって「読み終わったら返してくれるんだろうね?」と聞くのですが、その時に言い放ったセリフでした。

永久に借りておくだけ、見事なセリフですね!殴ったりしなかっただけマシなのかもしれません。このあとのび太はドラえもんから透明人間になれる目薬を出してもらい、ジャイアンの家に忍び込んで…という流れになります。

実は原作・アニメでも男気を見せるシーンは結構ある


出典:ドラえもんチャンネル公式‏Twitter

ジャイアンはいつも理不尽に弱い者いじめをしているわけではありません。時々まれに、のび太の味方になって助けてくれるシーンもあります。その代表作とも言われるのが、コミック35巻にある「ドラえもんに休日を!」です。

これは、普段のび太の世話ばかり焼いていて自分には休む暇もないとちょっとこぼしたドラえもんに、明日の日曜をドラえもんの休日にしようとのび太が提案するお話です。自分は大丈夫だから気にしないで遊んできなよというのび太に、でもやっぱり心配なドラえもんは「呼びつけブザー」を渡し、なにかあったら自分を呼ぶようにと言います。

翌日、それをしずか、ジャイアン、スネ夫に話すのび太。絶対に押さないと決心するのび太に対し、ジャイアンとスネ夫は「のび太のくせに生意気だ」と言い、なんとかしてボタンを押させようとあれやこれや妨害してくるのです。そして不運が重なり、のび太は隣町のいじめっ子に絡まれるハメに…。のび太はボタンを踏んづけて壊し、さあ殴るなら殴れと座り込みます。そんな彼の男気にジャイアンは感心し、「のび太、力を貸すぜ」とそのいじめっ子たちをやっつけてくれるのです。

ここから読み取れるのは、ジャイアンは自分の「テリトリー」のものは大事にする性分なのかもしれないな、ということでした。自分のテリトリーのものなので自分は好き勝手にはしますが、他人に乱されるのは気に入らない、そういう人なのかもしれません。そしてそれが、映画版ではジャイアンはかっこいい、に繋がっていくのではないかと思います。

映画版のジャイアンが頼もしい「いいやつ」として描かれるのはなぜか

名言「おれは歩く!のび太と一緒にな!おれがタケコプター落としたとき、おまえ、おれの手をはなさなかったもんな」


大長編ドラえもん (Vol.1) のび太の恐竜 (出典:Amazon)

「おれ…歩いてもいいぜ、日本まで」「おれは歩く!のび太と一緒にな!おれがタケコプター落としたとき、おまえ、おれの手をはなさなかったもんな」これは、映画ともなった『のび太の恐竜』にある、ジャイアンの名シーンです。

恐竜ハンターたちに、ピー助を渡せば日本へ送り届けてやると言われるのび太たち。こちらはタケコプターが壊れてしまって家に帰る術がありません。ピー助を恐竜ハンターに渡したくないのび太と取引に応じようと言うスネ夫。スネ夫にはおそらく、ジャイアンだってのび太よりは自分に賛同してくれるはずという考えはあったと思います。ところがジャイアンは、のび太と共に日本まで歩いてもいいと言います。実はこの前に、タケコプターが壊れたジャイアンを、のび太が助けるという出来事があったのでした。

自分を助けてくれたのび太へ恩返しをする。そういう気持ちが、ジャイアンにはちゃんとあるんだと知らしめてくれたシーンです。そして、この作品はドラえもんの長編の第1作になりますので、このときから、「長編になるとジャイアンはかっこいい」が始まったのだなと思います。

映画では明確な「悪」が他に存在するため


映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険(出典:Amazon)

ではなぜ、映画のジャイアンはかっこいい、のでしょうか。『のび太の恐竜』の例で考察してみますが、ジャイアンだってこのときだけ取り繕ったわけではないと思います。多分元々はそういう子だから、こういう場面でちゃんと言えたんですよね。普段、のび太たちの暮らしの中でこういうふうに、みんながピンチに陥ることってそうそうないですから、こういった男気を見せる場面がないだけなのではないでしょうか。

それから、こういう長編には必ずはっきりした明確な「悪役」が存在します。その敵を前に、仲間内でわがままを言ったり自分勝手な行動をするというのはさすがに醒めますよね。ジャイアンだってそのあたりは分かっているんだと思います。そして共通の敵の前では仲間を優先して行動することができる、誰よりも身体も大きく力も強い、ケンカも強い自分がという気持ちが沸き起こるのでしょう。アニメで時々のび太を助けてあげることもある、ということから考えても、「映画でだけかっこいい」のではなく、元々そういう子なのだけれども、普段見せる場面がないだけ、そう考えられるのではないかと思います。

名言「お前のモノはおれのモノ、おれのモノもおれのモノ」の意外な真実

原作にはないアニメオリジナルストーリーで描かれた背景


出典:ドラえもんチャンネル公式‏Twitter

ジャイアンの名言といえばこのセリフを外すことはできません。いわゆる「ジャイアニズム」という言葉を生みだしたきっかけともなるセリフです。元は原作漫画33巻に収録されている「横取りジャイアンをこらしめよう」というエピソードに出てきます。このときはこのセリフのまま、つまりのび太から物を取り上げる際に言い放たれた言葉であり、ひどすぎる、自分勝手すぎて笑いすら起きてくる、それ以外のなにも感想が出てこないシーンです。

ところがこのセリフには実は意外な背景があったことになっており、2011年3月25日に放送されたオリジナルアニメ「のび太のハチャメチャ入学式」というエピソードでそれが明かされることとなりました。とはいえこれは小学館のファミリーネットで募集していた「ドラえもん 小学校入学式思い出エピソード大募集」で募集された一般の方々の思い出を『ドラえもん』に取り入れたものの中に出てくるので、後付け設定ではあるのですが、これがまた素敵なお話になっているのです。

小学館ファミリーネット当時の募集記事

幼き日に交わした約束が今もいきている


出典:ドラえもんチャンネル公式‏Twitter

舞台は小学校の入学式。遅刻してしまったのび太は誰もいない体育館を見てもう式は終わってしまったと落ち込み(実際はジャイアンが間違えてもってきた目覚まし時計が鳴り響いたことに皆が火事だと勘違いして逃げてしまっただけ)、一人でとぼとぼ帰るのですが、途中で迷子になってしまいます。疲れてランドセルを置いて座り込んだところ、そのランドセルが転げ落ちてトラックの荷台に乗ってしまうというアクシデント!そこへ、のび太を探していたジャイアンが駆けつけ、そして偶然トラックから落ちてきたランドセルをキャッチして返してあげるのです。のび太のお礼に対して言ったのがあの「お前のものも俺のもの」発言、つまり「お前のものは俺のものも同然だから取り戻すのは当たり前のこと」という、とてもいいお話が元だったということですね。

ただこれはあくまでファンのエピソードを元に作られたものでしかも後付けの設定です。原作者の藤子・F・不二雄が当時ここまで考えてあのセリフを言わせたかどうかと言えば、個人的にはそれはないだろうと思いますが、一応このときにこれが「約束」となり、現在も使われているというオチなんですね。ただし、現在では横暴な意味で使われることがほとんど、というわけです。

ジャイアンは本当はやっぱり「いいやつ」


出典:ドラえもんチャンネル公式‏Twitter

ここまで、映画・長編のジャイアンはなぜかっこいいのか、について、セリフやエピソードから考察してきました。『ドラえもん』という作品は子供の目線で見るのと、大人の目線で見るのと全く印象が違ってくる作品だと思います。これは『ドラえもん』に限らず、キッズ向けといわれるホビーアニメなどもそうですが、大人になって公平な目線で見てみると、子供向けの作品に悪い大人は出てきても、「本当に悪い子」っていないんですよね。

ジャイアンは、「映画だけかっこよく描かれる」のではなく、「映画や長編だと普段持っているかっこいい面が前面に出てくる」こういうことなのだと思います。平和な日常にあっては身体が大きく強い子ははみ出しがちですが、映画などで大きな悪が出てきて仲間のピンチとなればその特長を生かして仲間を守るため一肌脱ぐ…ジャイアンは、やっぱりいい子だしかっこいいんですよ。だからこそ長く続く作品の中でも、ずっと重要なポジションにいるのだろうと思います。