毎回あの手この手で視聴者を振り回してきたアニメ『おそ松さん』。第2期が始まった今こそ、第1期を見返してみてはいかがでしょうか。ノリやテンポだけでない味わいのある回を、考察&解説とともにピックアップしました。
記事の目次
第5話「エスパーニャンコ」“あの台詞”は実は…
細やかな演出!十四松の表情を彩る夕焼けの妙
第1話から何でもありのアナーキーなギャグアニメに見せかけておいて、突然のシリアスな展開で視聴者の心をさらにぐっとつかんだのがこの回。猫しか友達がおらずいつも何を考えているかわからない四男・一松。そんな彼を心配した五男・十四松が、良かれと思ってデカパン博士に相談した結果、一松の唯一のトモダチである猫が人の心を代弁するようになり、その能力で一松の本音をさらけ出してしまいます。
それまで謎の多かった一松がにわかに人間味を表し、彼を取り巻く兄弟たちの立ち位置もリアルに浮き彫りにされました。心を読める猫を小道具として、台詞を最小限に抑えて光と影や間で心の機微を表現した演出も見事な、まさに神回。特にその演出が光ったのは、十四松が無言で一松に猫を差し出すシーンです。十四松の「ごめんね」をニャンコに代弁させたことで、彼の兄弟を想う気持ちの純粋さが際立ちました。
夕焼けの陰影を使った演出は他の回でも見られますが、主に十四松の表情にニュアンスを加えるために用いられることが多いようです。第9話「十四松の恋」、第17話「十四松と嘘」などがそれです。
Aパート「カラ松事変」は本当に大オチのため?
また「エスパーニャンコ」を語るうえで無視できないのが、同じく第5話Aパートの「カラ松事変」です。こちらはおでんのツケの支払いのために、チビ太に誘拐されたカラ松が、兄弟たちに完全に見放されるどころか最後は総攻撃に遭う…という、本家赤塚テイストを想起させる話。このある意味ぶん投げのオチが、Bパートの「エスパーニャンコ」でも丸々存在を無視されるという大オチにつながるという構成でした。
そのため「エスパーニャンコ」はその大オチのための壮大な振りととらえられていますが、脚本の松原秀によると、「エスパーニャンコ」は感動させる目的で書いた話だそうです。かつ6つ子それぞれのお当番回を設定して全体の構成を作っていたとのことなので、どちらかといえば「カラ松事変」でカラ松の、「エスパーニャンコ」で一松のキャラクターを掘り下げたと考える方が正しいかもしれません。
第7話「トド松と5人の悪魔」トッティが童貞である秘密
アニメ史に残る“あの顔”が生まれた人気回
いわば初のトド松のお当番回。兄弟に内緒でスタバァでバイトをし、学歴を偽ってまでリア充の仲間入りを画策したトド松を、偶然見つけた5人の悪魔、すなわち同世代カースト圧倒的最底辺の兄たちが引きずりおろします。全編テンポよく進むコメディですが、トッティの“あの顔”が結局はこの回のすべてではないでしょうか。 “あの顔”は、彼のアイコンとして定着しました。
トッティが童貞なのは兄弟のせい?あの顔のせい?それとも…
またこの回によって、複数の女の子とつきあのあるトド松がなぜいまだ童貞なのかのヒントも得られました。第3話「パチンコ警察」でも見られたとおり、どうやらトド松が一人いい目を見る段になると、5人の悪魔たちがこぞって叩き潰しにかかるようです。トッティの表面的な人当たりの良さに惹かれただけの女子なら、間違いなくここで去ってしまうでしょう。
加えて、キャラクターデザインの浅野直之によると、一見おしゃれに見えるトッティルックは、実は店の人に言われたままのコーディネートで、若干流行遅れなのだとか。第22話「希望の星、トド松」で「何も無し男」と呼ばれているのを見るに、彼の薄っぺらさは女子たちにもバレているようです。悪魔のせいだけじゃない! 付け焼刃の薄っぺらさのせい!
第7話「北へ」“『おそ松さん』死後の世界説”の発端
『おそ松さん』ファンの間でまことしやかにささやかれているのが、実は6つ子たちの物語は死後の世界を描いているという都市伝説です。そしてその発端となったのが、第7話「北へ」です。オーロラを目指し旅するデカパンとダヨーンのロードムービーで、列車にはねられ、ヒッチハイクで身ぐるみはがれと散々な目に遭いながら北へと進む2人を描いています。
これまでおそ松さんの主線は青で描かれていましたが、この話では最初は主線がすべて茶色なのです。しかしデカパンとダヨーンだけが、列車にはねられてから青の主線で描かれるようになります。ここから、茶色の主線は生者、青なら死者を表しているのではないか、つまり普段の話は死後の世界ではないかという説が生まれました。
確かにデカパン、ダヨーンと彼らと関わる2人のみが青線と徹底しているのは何か意味がありそうですが、あくまで一説にしかすぎないので、そのつもりで。
第9話「恋する十四松」十四松が救ったのは彼女の命か心か
【考察】恋した理由と失恋の理由と彼女の秘密
こちらも「エスパーニャンコ」と同じくらいの人気回。十四松が海辺で素振り中に出会った自殺志願者の女の子と、ある事故で助けられたことからデートする仲になりますが、女の子のある事情により失恋してしまうという悲恋の物語でした。台詞や説明を最小限におさえ、十四松の新ギャグと包帯とリストバンドをうまく小道具とすることで、切なさと余韻を印象付けたこの回。純粋に女の子を想い、最後は笑って見送った十四松とともに、偶然彼女の秘密を知ってから、弟を優しく見守ったおそ松の包容力も視聴者の胸を打ちました。
出会いと別れのシーンに「あの世説」の法則も
実はこの回も「あの世説」の法則にのっとっているとする見方があります。ラストシーンで新幹線に乗って去っていく彼女だけ、主線が茶色になっているのです。つまり十四松と出会ったときの彼女は、自殺願望から死後の世界(=6つ子たちのいる世界)に入り込んでいて、それを十四松が笑顔にして救ってやることで、生者の世界に返したのではないかと。それはそれで深い話になるし、なかなか粋な演出です。
しかし最後の茶色い主線は光の加減のせいともとれるので、だったらいいな、それもいいなくらいの気持ちで、一つの解釈として楽しむのがいいでしょう。
第13話「実松さん」「事故?」新年一発目の衝撃回
“第3話”のみ放送された「実松さん」とは
新年一発目に放送され、見るアニメを間違えたんじゃないかと思わせたのが、突如第3話と銘打って始まった「実松さん」です。さえない40前の独身男が、人付き合いを避けるようにそそくさと帰る家に待っているものは…というホラーテイストの回。おそらく要所要所で読者の度肝を抜こうというスタッフの意欲から生まれた話でしょうが、ぶん投げ感のあるオチなど、考察の余地が残りました。
【考察】Cパート「事故?」と対になったアナザーストーリー
個人的な考察を述べると、おそらくこれはCパートの「事故?」と対になった話ではないでしょうか。1クールを終えて、6つ子のキャラクターがあらかた固まり、いつまでも実家でニート暮らしという設定に安定感が出てきました。これは漫画やアニメにはよくある毎日が夏休み状態ですが、リアルに考えるとそれはほぼありえない、もしくはかなり悲劇的な事態です。その蜃気楼のような危うさを、「もうひとつのおそ松さん」として描いたのではないかというのが結論です。その危うさを表現するためには、未だ(というより最後まで)、奥に何か別の世界を内包していそうな十四松の分身を主人公に置くのが最適だったのでしょう。
しかしあくまでこの「実松さん」はアナザーワールド。よって「事故?」では兄弟全員を巻き込む大げんかをしても、翌朝には普段の関係に戻っている安定した関係を描いたのです。童貞ニート6人の盤石な日常の裏側に秘められた毒。それが垣間見えるからこそ、『おそ松さん』には何が起こるかわからないワクワクとハラハラがあるのでは?
またこの「事故?」以降、6人全員の個性を列挙するような回が増えました。「風邪ひいた」、「逆襲のイヤミ」、「スクール松」、「イヤミの学校」等。
第13話ほか「じょし松さん」性転換キャラがリアル!
説明不要。まさかの性転換ネタで公式が再大手と言わしめた6つ子の女子バージョン。あまりにえぐい本音や生態がリアルすぎて、一定の層に深く刺さりました。とにかくリアル。女だと他人で、大して気が合わないのにつるんでいるのがリアル。その中で全員自分が一番ましだと思っているリアル。人の話を聞いている風で自分の話に持っていくリアル。また自然な女声の3人に対し、性別問わない声の1人、同聴いても無理のある2人という計6人のキャラクターの違いも面白さのひとつ。
第16話「一松事変」一松の意外な本音!
実はカラ松ファッションを1度試してみたくて、カラ松が寝ているすきに来てみたものの、何とおそ松に見つかってしまい大慌て! おそ松が一松をカラ松と勘違いしているうちに何とかしようと策を練るうち、カラ松が目を覚ましイケメンなサポートをしますが、それが仇となって残念な結末を迎えます。
一松の意外な本音にも驚かされましたが、それより気になるのは、おそ松が本当にカラ松ファッションを着ているのが一松だと気づいていなかったのかということではないでしょうか。そして答えはおそらく、気づいていたが正解だと思われます。「エスパーニャンコ」などで発揮されたおそ松の兄貴力が、兄弟の入れ替わりを見抜かないはずがないのですから。気づいたうえで、好き放題振る舞って楽しんでいた、あるいはどちらでもよかったと考えるのが妥当でしょう。
第19話「チョロ松ライジング」兄弟の自意識を考察
「事故?」でようやく他の兄弟たちと同じクズであることが確定したチョロ松が、さらに個性的なクズとしてライジングしたこの回。櫻井、神谷、入野の会話劇の上手さで魅せたレベルの高い回でもあります。この回で気になるのは、それぞれの自意識の意味でしょう。
美しさはないけれど扱いやすく分相応よりも小さいくらいのおそ松、キラキラに盛ってはいても扱える範囲にはとどめているトド松、自分からかけ離れたところで他人の迷惑になるほど片焼いているチョロ松。一松は傷だらけで色も暗く、誰にも知られたくないために埋めているけれど、そこそこの大きさがあるため何度も出てきてしまうのでしょう。カラ松はかなりキラキラしていますが、ちょうどいい形態を保っている様子。そして謎なのが十四松…。自意識というものを完全に手放すことで、大きさも位置も定まらない概念的な存在となっている…のかもしれません。
第24話「手紙」伏線を回収した感動回(…のはず)
やはり最後は、6つ子の終焉を描いた第24話「手紙」でしょう。チョロ松から順にひとりひとり松野家のから巣立っていく兄弟たち。しかしひとり前に進むことができず家に留まるおそ松。そこに1通の手紙が届き…という、2クール通して最もシリアスタッチの回となりました。
結局は続く最終回ですべてぶち壊される壮大なフリでありアナザーストーリーなのですが、これまでのキャラ付けが伏線として機能していて、見るほどに味のある名作回となっています。フリばかりで就職なんか無理だと思われたチョロ松がついに就職し、それまで兄弟たちに押し切られてきたカラ松が最強の長男に鉄拳制裁を加え、「勝ち戦しかしない」はずのトド松が長男にケンカを売る。十四松はちゃんと電話対応ができるようになっていて、いつもサンダルだった一松はついに靴を履いて家を出ました。
他にもこれまで出てきた要素が随所にちりばめられているので、何度でも見返してほしい回です。もちろんそこから最終回までの流れも含めて…!