登場人物の心情の変化に寄り添うヒューマンドラマの中でも、実話を基にした作品は特に心を揺さぶられます。映画用の設定に変わる部分もありますが、実際に起きた出来事や、実在した人物のことを考えると感慨深いものを感じます。今回は、そんな実話を基にしたヒューマンドラマの映画の中からオススメの10作品をご紹介します。
記事の目次
『シンドラーのリスト』(1994年/アメリカ)
多くのユダヤ人を救ったオスカー・シンドラーの物語
第二次世界大戦下で1100人以上のユダヤ人を救ったドイツ人実業家オスカー・シンドラーの半生を描いた作品。合理的で事業の成功だけを考えていた男が、どのようにして多くのユダヤ人を救うようになったのか。この物語では、戦争という大局に埋もれてきた数々の死を目の当たりにし、自分でしか導き出せない答えを出し続けた彼の魂の闘いを観ることができます。
リアルな描写に息を呑む、スピルバーグ監督の意欲作
万人受けする娯楽作品が多いスティーヴン・スピルバーグ監督作品の中では、今作は異色な作品とも言えます。ほぼ全編がモノクロでドキュメンタリー風な撮影方法が用いられていて、細部まで作り込まれ徹底したリアルな描写からも、今作を完成させたスピルバーグ監督の意欲が感じられます。
『ビューティフル・マインド』(2002年/アメリカ)
天才数学者ジョン・ナッシュの苦悩と周囲の支えに胸を打たれる
後にノーベル経済学賞を受賞した天才数学者ジョン・ナッシュの半生を描いた作品。天才ゆえに陥る苦悩や、彼を支える周囲の人々との関わりに胸を打たれる感動作です。ロン・ハワード監督による危機感迫る人間描写と、ジェームズ・ホーナーによる音楽が見事にマッチしていて、映画でしか味わえない感情が呼び起こされます。
基になった実話を知らなければ2倍楽しめる作品
今作は物語が進むにつれ、作品が持つトーンやストーリーの核が徐々に変化していきます。これは基になった実話を知っていればその後の展開がなんとなく理解できてしまいますが、予備知識がない状態で鑑賞すれば2倍楽しめる作品でもあります。筆者は初鑑賞の際は予備知識がなかったため、物語にあっという間に引き込まれました。
『ネバーランド』(2005年/アメリカ・イギリス)
ジョニー・デップ主演で明かされる『ピーター・パン』誕生の秘密
今や知らない人がいないほど有名となった物語『ピーター・パン』が誕生するまでの秘密を追った物語。生みの親である劇作家をジョニー・デップが演じ、彼が出会った少年たちとの絆が繊細に、かつファンタジーを交えて壮大に描かれています。『ピーター・パン』の様々なアイデアの起源が明かされるので、とにかくワクワクさせられます。
「信じる力」に引き寄せられたバリと少年たちの姿に感動
4兄弟の少年たちとの出会いがきっかけで劇作家は『ピーター・パン』のアイデアを思いつくのですが、その少年たちとの触れ合いの中で核になっているのが「信じる力」です。父の死をきっかけに「信じる力」を失った少年たちと、「信じる力」で世界を変えようとする劇作家。そんな両者が引き寄せられあい人々の心を動かしていく様には素直に感動させられます。
『インビクタス/負けざる者たち』(2010年/アメリカ・南アフリカ)
国民をひとつにしたネルソン・マンデラ大統領の奇想天外な政策
南アフリカ共和国の大統領に就任したネルソン・マンデラが人種間の溝を埋めて国民をひとつにするまでの奮闘を描いた作品。常に規格外の行動をする彼が国民をひとつにするために考えたのが、自国のラグビーチームを和解の象徴として掲げることでした。誰もが不可能だと思ったこの奇想天外な政策を、いかにして成し遂げたのか。その感動の結末を、ぜひ。
本物さながらのラグビーのシーンは圧巻
マット・デイモン演じるフランソワ・ピナールが所属する南アフリカ共和国ラグビーチーム「スプリングボクス」が試合や練習を行うシーンが劇中では何度もあるのですが、このラグビーのシーンが本物さながらで圧巻です。特に終盤でのラグビーワールドカップ戦は、映画とは分かっていても手に汗握り、見入ってしまいます。
『しあわせの隠れ場所』(2010年/アメリカ)
裕福な一家とホームレスの少年が本物の家族になるまでの物語
行く当てのないホームレスの少年と、偶然出会った裕福な一家が困難を乗り越えながら本物の家族になっていくまでの物語。この一家が偽善的な考えで行動せず自分たちの気持ちに素直な点や、ユーモアと人間ドラマのバランスが絶妙な点がとにかく魅力的な作品です。
自分を犠牲にしてでも大切な人と向き合い続ける「勇気」がテーマ
作中で、ある詩を引用して「勇気」について触れる場面があるのですが、この「勇気」こそが今作のテーマであるように感じます。自らが傷ついたり批判の目にさらされる可能性があるにも関わらず、大切な人と向き合い続ける登場人物たちの「勇気」が常に描かれていて、明日を生きる活力をもらえます。
『英国王のスピーチ』(2011年/イギリス・オーストラリア)
吃音症を抱える英国王子と平民の言語聴覚士の友情
後の英国王で吃音症を抱える英国王子と、彼の支えであり続けた植民地出身の言語聴覚士の友情を描いた物語。国民に声明を発する立場でありながら吃音症に悩む彼が、どのようにして克服し国王となったのか。想いを言葉にできない彼の葛藤と、彼の心に寄り添い続けた言語聴覚士との友情が、押しつけがましくない心地よい雰囲気で描かれています。
計算された人物配置と見惚れるほどの映像力
今作でアカデミー賞監督賞を受賞したトム・フーパー監督は手掛けた作品数自体は少ないものの、その確立された世界観と技術にはかなり驚かされます。今作でも、対面して話す人物を左右に寄せて正面から捉えたカットを繋ぐなど、監督特有の計算された人物配置が全編を通して味わえます。また、落ち着いていながらもどこか力強さを感じる映像にはついつい見惚れてしまいます。
『ザ・ファイター』(2011年/アメリカ)
ボクサー兄弟を中心に巻き起こる再起の物語
薬物中毒の元プロボクサーの兄と真面目にボクシングを続ける弟、そして彼らの周囲の人間の再起を描いた作品。絆を大切にするあまりいつしか依存に変わってしまった家族が、離れてそれぞれの課題を乗り越えていく姿には胸を打たれます。
想像のひとつ上をいくクリスチャン・ベールの役作りに感嘆
徹底した役作りに定評があるクリスチャン・ベールですが、今作でも薬物中毒の元プロボクサーを演じるにあたり髪の毛を抜いて歯並びを変えるという、自分の人生を捨てたような役作りに身を投じています。実在の人物がモデルのため見た目以外にも力を入れていたようで、エンドロール時に本人が登場した時はあまりに似すぎていて改めて感嘆させられました。
『インポッシブル』(2013年/スペイン)
津波によって引き離されながらも信じ合う家族に涙
2004年のスマトラ沖地震による津波に巻き込まれた家族が、引き離されながらも互いを信じ合い再会を目指す物語。相手の生死も居場所も分からない状況に置かれながらも再会できることを信じ、見えない何かで繋がり合う家族の姿には涙を抑えることができません。
映像もストーリーも圧倒的なクオリティ!
引き離された家族のそれぞれの視点で描かれる苦難や奮闘も見ごたえのあるストーリーの繋がりで満足するのですが、そのストーリーに見合った映像のクオリティが圧倒的で、その現実味溢れる描写の数々に心臓はバクバクです。自然災害をリアルに描くのはかなり大変だと思いますが、今作は実物とCGの境界線がほとんど分からず、冒頭から一気に引き込まれます。
『ダラス・バイヤーズクラブ』(2014年/アメリカ)
余命30日を宣告されたHIV感染患者の闘いの物語
HIV感染により余命30日を宣告された男の闘いを描いた作品。副作用の少ない認可治療薬が国内にないことを知り、会員制の無認可治療薬販売クラブを利益目的で設立した彼が、自らの命や周囲の命と向き合い変わっていく様がありありと映し出されています。感動的な物語に誇張せず、あくまで彼の人生を描いている点が作品の説得力を増していました。
マシュー・マコノヒーが痩せゆく姿が痛々しくも力強い
主人公を演じたマシュー・マコノヒーは役作りのために面影がなくなるほど痩せていましたが、症状が悪化するにつれ痩せていく姿が実に痛々しくありながらも、それに比例して力強くなってく彼の魂のようなものが画面を通して伝わってきました。共演のジャレッド・レトも負けず劣らずの存在感を放っていて、彼ら2人が作品そのもののメッセージ性を底上げしているように感じました。
『それでも夜は明ける』(2014年/アメリカ・イギリス)
12年もの間、奴隷として囚われた黒人男性の壮絶な人生
奴隷として売られた黒人男性の12年にも及ぶ壮絶な人生を描いた作品。今作は主人公であるソロモン・ノーサップによる自叙伝を基に製作されましたが、奴隷制度の存在そのものを知っていても驚かされる事実の連続です。あまりの理不尽さに怒りさえ沸き起こりそうになりますが、それでも冷静に見届けることができたのは作品が持つ熱量のおかげだと思います。この熱量、ぜひご自身で体感してください。
徹底的に“人間”に焦点を絞った極上のヒューマンドラマ
ヒューマンドラマは人間関係の遷移やストーリー構成で焦点を拡散させて「面白く見せる」こともできるジャンルですが、今作は徹底的に“人間”というものに焦点を絞っています。あらゆる感情をあぶり出し、人間が持つ普遍的な真実を観客に突きつけ“人間”を描いた今作こそ「ヒューマンドラマ」と呼ぶにふさわしい。そう感じる作品です。