数ある映画ジャンルの中でも、「いち早い観客の感情移入」と「スピード感あるストーリー展開」が最も求められるジャンル、サスペンス映画。今回は、そんなサスペンス映画で特にハラハラドキドキさせてくれる、緊張感があふれる11作品をご紹介します。
記事の目次
『新幹線大爆破』(1975年/日本)
世界から絶賛されたパニック・サスペンス
爆弾が仕掛けられた新幹線を舞台にしたパニック・サスペンス。公開当初こそ興行的に恵まれなかったものの、世界各国での公開をきっかけにその完成度の高さが絶賛され、40年経った今でも人気がある作品です。「時速80kmを下回ると爆発する」という爆弾が仕掛けられた新幹線を主軸に、警察と犯行グループの攻防、国鉄と乗務員の奮闘が描かれ、目を離すことができない緊張感が味わえます。
交錯する人間ドラマもアツい!
それぞれの登場人物たちの視点が交錯する人間ドラマも今作の見所です。視点を限定せず、犯行グループ、警察、政府、国鉄職員、乗務員のそれぞれの視点で物語が進んでいき、思惑がぶつかり合う展開はアツいです。犯行グループを単なるテロリストとして描かず、犯行に至るまでの背景も描かれているので、警察との攻防の行く末もハラハラしながら楽しめます。
『パニック・ルーム』(2002年/アメリカ)
パニック・ルームがある家で繰り広げられる母娘VS強盗団の戦い!
不法侵入者などからの一時的な避難を目的としたパニック・ルーム付きの新居に越した母娘と、“ある目的”を持った強盗団との攻防を描いたサスペンス映画。完全防備の部屋に隠れたから安心かと思いきや、引っ越してきたばかりで機能設定が完了していなかったり、強盗団の中にパニック・ルームの詳細を知る人物がいたりと、なかなかにドキドキ感を与えてくれます。母娘と強盗団の知恵比べ的な戦いも面白いです。
子役時代のクリステン・スチュワートなど、出演陣にも注目
母娘と強盗団の攻防を描いた物語のため登場人物が少ないですが、ジョディ・フォスターやフォレスト・ウィテカーといった当時からの有名どころを始め、子役時代のクリステン・スチュワートや、徐々に活動の場を広めつつあったジャレッド・レトなどが出演しているのも注目です。特にクリステン・スチュワートは子役時代から貫禄たっぷりで、ふてぶてしく生意気な娘の役がハマり役すぎて笑ってしまいました。
『96時間』(2009年/フランス)
誘拐された娘を救い出すアクション・サスペンス
何者かに誘拐された娘を救い出すために立ち上がった、元CIA工作員の姿を描いたアクション・サスペンス。娘の行方や犯人の情報などが物語中盤まで観客にも与えられないため、主人公と同じ父親目線でハラハラさせられます。CIA時代に培った能力や人脈を駆使して、数少ない情報をもとに娘を捜し出すスパイ映画要素もあり、1本で2つの味を楽しめます。
タイムリミットは96時間!戦う父親の追走劇に興奮
今作の邦題にもなった『96時間』とは、「誘拐事件の発生から96時間を過ぎると被害者の救出がほぼ不可能になる」という統計からの引用で、つまり娘を救い出すためのタイムリミットのことを指します。タイムリミットがあるため父親も手段を選ばず、犯行グループを追いかけ片っ端から容赦なく叩きのめします。中途半端な正義感などは一切介入させず娘のためだけに力を行使する姿はある意味爽快で、緊張感が途切れない追走劇にも興奮します。
『[リミット]』(2010年/スペイン・オーストラリア)
棺の中だけで展開するワンシチュエーション・サスペンス
[リミット] コレクターズ・エディション(出典:Amazon)
棺に閉じ込められた男を描いたワンシチュエーション・サスペンス。これはすごいです。ほぼ全編が棺の中だけで展開していくのに、約90分間飽きることなく没頭してしまいます。映画の底なしのような可能性を感じました。イラクで拉致され棺ごと地中に埋められた男が、携帯電話、ライター、ボールペンなどといった限られたアイテムを活用して脱出を試みるのですが、その結末には正直驚きます。
こちらにまで伝わってくる閉塞感に冷や汗!
棺の中で物語が展開していくわけですから、当然始まりから終わりまで主人公は横になったまま行動します。この閉塞感を伝える見せ方が上手いので、こちらも観ているだけで息苦しくなってきて冷や汗ものです。また、棺の中からアメリカという国家の暗部をえぐっていて、主人公の置かれた絶望的な状況に否が応でも没入させられます。鑑賞後も「自分が同じ状況になったらどうするだろう?」という妄想で軽く一時間は楽しめます。
『アルゴ』(2012年/アメリカ)
失敗は許されない!実話を基にした救出作戦
1979年に発生したイランアメリカ大使館人質事件を題材に、CIAによる救出作戦を描いたサスペンス映画。イランの反米デモ隊による大使館占拠の際に脱出した6人の大使館員を見つからずに救出するためCIAが立てた作戦は、『アルゴ』という架空の映画を創作し、彼らをカナダ人の映画スタッフとして出国させるというものでした。見つかれば公開処刑という危険と隣り合わせの状況での救出劇は終始緊張感に包まれ、アカデミー賞作品賞受賞も納得の内容です。
ハリウッドへの風刺も効いた、ベン・アフレック監督作第3弾
俳優としてだけでなく、監督としても手腕を発揮しているベン・アフレック。そんな彼の監督作第3弾の今作では、ハリウッドへの風刺を効かせた表現が多く見られます。アラン・アーキンが演じたベテラン監督やジョン・グッドマンが演じた特殊メイク技師のセリフからは特にそれが読み取れて、シリアスな内容でありながらも、クスりと笑わせる場面もあり絶妙なバランスで、作品をより楽しませてくれます。
『サプライズ』(2013年/アメリカ)
別荘に集まった家族を襲う謎のアニマルマスク集団!
両親の結婚記念日を祝うために別荘に集まった4兄妹とそれぞれの恋人たちが、謎のアニマルマスク集団に襲われるサスペンス・スリラー。ハリウッド版『デスノート』の監督として注目を集めたアダム・ウィンガード監督がメガホンを取った今作ですが、何も起こらないわけがない雰囲気が冒頭から溢れています。目的も正体もわからず確実に殺しにかかってくるアニマルマスク集団はかなり恐ろしいですが、物語が進むにつれ、徐々にこの映画の本当の恐ろしさがにじみ出てきます。色んな意味で。
登場人物たちもビックリのまさかの展開!
紹介しておいてこんなことを言うのも変ですが、今作は事前情報なしで観た方が楽しめる作品です。別荘に集まった家族+アニマルマスク集団の中に秘密を持った人物が何人かいて、その秘密が物語を発展させていくのですが、全登場人物もビックリするような展開が待っています。それにしても、この監督は色々な殺し方に関するこだわりが強いらしく、映画を利用して楽しみすぎです。
『ザ・コール [緊急通報指令室]』(2013年/アメリカ)
アメリカの緊急通報指令室を舞台にしたクライム・サスペンス
「911番」通報のオペレーターを務める女性が、通話を頼りに誘拐された少女を助け出そうと奮闘するクライム・サスペンス。これもかなりハラハラドキドキさせてくれます。見える恐怖と見えない恐怖をうまい具合に組み合わせ、観客の焦燥感をあおりつつ物語に引き込んでいきます。主人公に感情移入しやすいような流れを冒頭でしっかりと仕組んでいるので安心して楽しめます。
わずかなヒントを頼りに誘拐された少女を救い出せ!
少女、オペレーター、警察のそれぞれの視点で事件がテンポよく同時進行で描かれているため、飽きることなく、結末まで1秒たりとも目が離せません。わずかなヒントをパズルのように組み合わせていく過程では謎解きモノに似た興奮も覚えます。救い出せそうで救い出せない!この救出劇の結末、ぜひご自分の目でお確かめください。
『フライト・ゲーム』(2014年/アメリカ・フランス)
乗客に紛れた見えないテロリストとの戦いに興奮!
フライト・ゲーム スペシャル・プライス(出典:Amazon)
航空保安官が乗客の命を救うため、機内に潜む正体不明のテロリストと戦うリーアム・ニーソン主演作。リーアム・ニーソンはこの手の類のサスペンス映画が本当によく似合います。画面に映っているだけで絶対的な安心感があるからでしょうか。今作でも、乗客に紛れた姿の見えないテロリストに翻弄される航空保安官を演じているにも関わらず、やはりどこか安心感があります。それでいてドキドキ感も忘れず与えてくれ、安定した仕上がりになっています。
乗客全員を疑え!犯人を捜す推理過程も面白い
「指定の口座に金を振り込まなければ20分ごとに乗客を一人殺す」という予告を受けたリーアム・ニーソン演じるビルは、それを防ぎつつ犯人を捜さなければならないのですが、その過程も面白いです。犯人側にはビルの情報を掌握されていますが、ビルは何もない状態から推理を始めます。信用できる数人に協力してもらいますが、彼らも本当に犯人ではないとは言い切れないため疑心暗鬼になります。展開もそう簡単に予測できる内容ではないため、余計なことを考えず没頭できると思います。
『クーデター』(2015年/アメリカ)
異国の地で迫りくる“人間”という恐怖!
東南アジアに赴任した男とその家族が、クーデターを起こした反乱勢力から命を狙われるサスペンス・スリラー。赴任したばかりで右も左も分からない異国の地で、言葉も通じない人間たちからひたすら命を狙われる恐怖たるや尋常ではありません。下手をするとゾンビより怖いです。しかも主人公には妻と幼い娘2人という守るべき存在が。終始手に汗握る展開でスピード感もあり、約90分間があっという間に感じます。
ヤワな物語では描けない家族の絆に泣かされる
家族の絆を押し付けてくるお涙頂戴的な作品と違い、今作では極限状態で“選択”を迫られた家族がどう動くのかを描いているため、ヤワな物語では描けない現実味のある家族の絆に涙腺が緩みます。なぜ彼らが襲われるのかという理由も徐々に明らかになっていき、国家間で起こる軋轢のようなものを考えさせられます。恐怖と感動が共存したこの傑作を、どうぞお楽しみください。
『ヒメアノ~ル』(2016年/日本)
古谷実原作の同名マンガを実写化!
コアなファンを持つ人気漫画家・古谷実の同名マンガを実写化した今作では、日常に潜む狂気が徐々に姿を現してくる様が緻密に描かれています。前半は笑いを交えた主人公の恋物語が描かれ、後半ではまるで違う作品のように、その日常が崩されていきます。しかし今作がすごいのは、その崩れていく日常もあくまで日常として描かれているところ。自分の身近にも潜んでいそうな狂気が迫りくる過程に心臓はバクバクです。
V6森田剛のリアルな狂気を帯びた怪演に背筋が凍る
約束します。今作を観れば森田剛への印象がガラリと変わります。わざとらしく発狂するでもなく、サイコキラーを“演じる”わけでもなく、ただただ森田(作中の役名)という人物として生きています。それがあまりにリアルで、背筋が凍るほどの怪演を見せてくれます。グロテスクな描写が苦手ではない方はぜひ観てください。後悔はさせません。
『ドント・ブリーズ』(2016年/アメリカ)
盗みに入った若者3人が盲目の老人に追い詰められていく!
大金を持っているという家に盗みに入った若者3人が、家主である盲目の老人に追い詰められていくという、ある意味ホラーとも言える今作。心理戦を交えた緊張感あふれる展開と、その老人が抱えている秘密に驚かされます。家の中に閉じ込められたうえ、老人は耳が非常に鋭敏で息をしただけで居場所がバレるという脱出難易度の高さ。今作のアイデアを思いついた人は変態です。
感情移入するキャラクターが転々とする不思議な感覚
通常であれば主人公や近しい人間に感情移入するものですが、今作ではある理由から老人にも感情移入してしまいます。しかし物語が進むにつれ老人の闇が明かされていき、主人公、老人、いややっぱり主人公、という風に感情移入する対象のキャラクターが転々として不思議な感覚を味わいます。音を立ててはいけない映像的な緊迫感もさることながら、限られた空間の中で物語が二転三転していく脚本力の高さにも感動します。