劇中の謎を徹底解説!映画『エイリアン コヴェナント』を考察してみた





傑作SFモンスター映画『エイリアン』シリーズの最新作『エイリアン コヴェナント』が公開されました!今作は様々な芸術作品の引用があり、キリスト教的な文脈を読み解く必要がある作品ですので、それらと合わせて今作の裏テーマを考察していきます。

初代『エイリアン』の前日譚シリーズ第2作目!

「エイリアン」誕生の真実とは!?


出典:20世紀フォックス映画公式‏Twitter

『エイリアン』シリーズの最新作である今作『エイリアン コヴェナント』は、初代『エイリアン』の生みの親であるリドリー・スコットによって、「エイリアン」誕生までの謎が描かれます。

シリーズの前作『プロメテウス』では、人類の創造主とされる「エンジニア」に会うためにLV-223という惑星に降り立った調査隊が、「エンジニア」が所有していた生物兵器によって襲われ、その生物兵器が後の「エイリアン」になることを示唆して映画は終わりました。

今作は、人類の新天地「オリガエ6」という惑星に向かっていた入植者たちを乗せた宇宙船「コヴェナント号」が、途中の惑星に降り立ったことから惨劇が始まるという、SFパニック映画のお約束のような展開でストーリーが進みます。

主人公はイケメンのアンドロイド!?


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今作の主人公は「世界一美しい顔」ランキング1位になったことのあるイケメン俳優、ミヒャエル・ファスベンダーが一人二役で演じるアンドロイド、デヴィッドとウォルターです。デヴィッドは前作『プロメテウス』にも登場し、前作の主人公エリザベス・ショウと共に生物兵器の手を逃れ、「エンジニア」の宇宙船を使って宇宙へ飛び立ちました。

そんな彼が今作では、ウォルターら「コヴェナント号」の乗組員たちを生物兵器から救出するのですが、彼は助けた乗組員たちを媒介として、自身が育てていた生物兵器を更に進化させて、完璧な生物を生み出すことを計画していました。この後半からの展開を許せるかどうかで、今作の評価が変わってくる作品ではありますが、ここで語られているテーマは、実はこれまでのリドリー・スコットの映画にも一貫して通じているテーマでもあります。

リドリー・スコットの作家性をおさらい!


出典:20世紀フォックス映画公式‏Twitter

今作ではこれまでの『エイリアン』シリーズと同様にグロテスクな表現が頻出しますが、『ハンニバル』の調理シーンや、『悪の法則』の「ボリート」のシーンなど、これまでのリドリー・スコット作品でもグロ描写は何のためらいもなく出てきます。

重要なのは、ただ単に「露悪趣味」としてグロ描写を入れているのではなく、「現実の残酷さ」を描くためにグロ描写をリアルに描いているということです。リドリー・スコットは徹底した現実主義者であり、彼の作品には神秘的な表現というものは一切ありません。

そのため、「現実の残酷さ」を覆い隠す存在である「宗教」というものに対しては、かなり攻撃的な態度を示しており、特にキリスト教に対しては、これまでの作品の中で様々な嫌がらせを行っています。具体的な事例は以前書いた記事に載せてあるので省略しますが、これらのリドリー・スコットの思想が『エイリアン コヴェナント』でも重要になってきます。

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2017-04-26

今作の謎に込められた意味とは?

ワーグナーの曲の意味とは?

映画のオープニング、真っ白な部屋の中でデヴィッドと彼の創設者であるウェイランドの会話シーンで、ピアノに座ったデヴィッドはワーグナーの戯曲『ニーベルングの指環』の序夜『ラインの黄金』の第四場にある『ヴァルハラ城への神々の入城』を演奏します。この戯曲は一つの指環を巡って巨人と神々が争う物語ですが、第四場はローゲという炎の神が神々の世界の終わりを悟り、世界を焼き尽くそうとすることを独白する、という場面です。

ローゲとは北欧神話に登場するロキという神がモデルとなっているのですが、ロキは悪知恵の働く狡猾な者の象徴であり、今作におけるデヴィッドの立ち位置と重なります。

登場人物の名前に注目!

今作のタイトルにもなった「コヴェナント」とは「約束」、「契約」という意味であり、新約聖書、旧約聖書の「約」でもあります。宗教的な言葉に用いられる言葉なのですが、今作では登場人物の名前にも宗教的な意味が込められています。

主人公デヴィッドは、オープニングの真っ白な部屋の中に置かれたダヴィデ像を見て「デヴィッド」と名乗るのですが、ダヴィデは旧約聖書において、ゴリアテを倒したことから「強者を打ち負かす存在」の象徴です。

映画の冒頭、「コヴェナント号」は船長である「ジェイコブ」が事故死してしまい、代わりに「クリス」が船長になるのですが、ジェイコブという名前はヘブライ語を起源としており、クリスはもちろんキリストの意味です。これらから冒頭のシーンは、人類と神との「契約」は、「ユダヤ教」から「キリスト教」に託された、という意味に取ることができます。これを裏付けるように、数秒しか出番のないジェイコブをノンクレジットで演じているのは、実力派俳優ジェームズ・フランコであり、彼はユダヤ人でもあります。また、コヴェナント号を託されたクリス代理船長が全く役に立たない、というのもキリスト教に対する嫌がらせと取ることも出来ます。

デヴィッドの研究部屋のモデルとは?

デヴィッドは生物兵器を進化・発展させるために様々な解剖実験などを繰り返し、前作での主人公であるショウ博士も彼の解剖実験のために殺害されたことが判明するのですが、彼の研究はどこかルネサンス期の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの研究にも重なります。

レオナルドは絵画作品で有名ですが、解剖学の研究として遺体解剖のスケッチを数多く残しており、現代科学にも適応できるほど当時としては先駆的な研究を行っていました。しかしキリスト教の支配が強かった当時、彼の研究は「悪魔の所業」とみなされるものであったのも事実です。

デヴィッドの研究部屋に小さなエイリアンが十字架に張り付けられている標本がありましたが、これもキリスト教に対する「悪趣味な嫌がらせ」の一つかもしれません。

裏テーマは「自然淘汰」の物語

散りばめられた「支配からの解放」のモチーフ

デヴィッドは映画のオープニングで、彼の創造主であるウェイランドから自分が「被創造物」であることを意識させられます。そんな彼にとって、唯一自分を表現できる創造的行為が、「エンジニア」が所有していた生物兵器を進化させることであり、それによって創造主である人間を滅ぼそうと考えていたのです。デヴィッドにとって「エイリアン」の研究は、自分を支配していた「被創造物」というコンプレックスを解消する手段だったのです。

これは、これまでの歴史の中で繰り返されてきた「自然淘汰」というものでもあり、リドリー・スコットは「人類は現在隆盛を誇っているけれど、それも必ず滅びゆく運命である」という盛者必衰の残酷な教えをこの作品のテーマとして込めています。

ダヴィデは巨人兵士ゴリアテを倒し、『ヴァルハラ城への神々の入城』は狡猾なロキが神々の世界を終わらせようとする場面であり、天才レオナルド・ダ・ヴィンチの作品を筆頭としたルネサンス芸術は当時の絶対的な存在だったキリスト教の支配から人々を目覚めさせるきっかけでもありました。これらの物語・史実と同様に、「創造」することへの快感を覚えた狡猾なデヴィッドによって人類は滅びの道を歩むことになるのです。

当初のタイトルは「失楽園」だった!

今作は当初「パラダイス・ロスト」という副題が付けられる予定でした。これはルネサンス期のイギリス文学『失楽園』のことなのですが、この物語は悪魔ルシファーを主人公として、人間が原罪である「愛」を選んでエデンの園を追放されるまでを描いています。これと同様に今作のコヴェナント号の乗組員たちは自らの愛する人を救うために自滅していきます。

『失楽園』は「悪魔」というものの行動原理を具体的に示した、当時としては斬新な物語であり、これまでのキリスト教における様々なモチーフを組み合わせて作られたSF的な娯楽作品でした。これらのような意味で言えば、今作『エイリアン コヴェナント』はまさに現代における『失楽園』とも言うことができるのではないでしょうか。

映画『エイリアン コヴェナント』の個人的総評と感想

良かった点


出典:20世紀フォックス映画公式‏Twitter

  • リドリー・スコットの過激な思想がこれまでの作品の中でも、分かりづらくではありますが最も具体的に表れていたようにも感じて痛快でした。このような内容の映画が大規模で公開されてヒットしていること自体奇跡に感じます。
  • 露悪的なグロ表現にも手を抜かず、A級映画の技術レベルでB級映画がやりそうな表現をやってくれたのが嬉しかったです。様々な芸術作品の引用を出した後でも、きっちりB級映画的な帰着をしてくれるのは偉いと思います。
  • ダニエルズを演じたキャサリン・ウォーターストンが、初代『エイリアン』シリーズのリプリーを彷彿とさせる強い女性主人公像を打ち出せていて良かったです。

悪かった点

  • 『エイリアン』シリーズの映画として観ると肩透かしを食らうかもしれません。今シリーズは『エイリアン』の面を被ってリドリー・スコットが言いたいことを言う、という内容のシリーズです。
  • 映画の中盤は会話劇が中心になるので、リドリー・スコットの思想的なことに関心がない観客は退屈に感じると思います。
  • ストーリーをテンポよく進めるためと、アンドロイドとの能力的な比較という意味もあるのかもしれませんが、人間たちがあまりにも間抜けでした。未知の惑星に降り立つ時はヘルメットぐらい被れよ!

100万点中90点!

神をも恐れぬリドリー・スコットの突き抜けた姿勢に感服しました!賛否分かれるシリーズではありますが、恐らく最終章となる次作も今から楽しみです!