『ゴールデンカムイ』第11巻の内容考察と、第12巻の発売日&内容の予想をしています。第11巻の肝は、これまで一匹狼(山猫?)の立ち位置を貫いていた尾形の凄惨な過去とかすかな心境の変化です。それらは今後どういった展開につながるのでしょうか。
記事の目次
第11巻のあらすじ|刺青人皮×2と尾形の過去
第10巻では裏切者疑惑の晴れた白石を連れ、第七師団の追手から逃げおおせた杉元&アシリパ一行。尾形を含めた4人で行動中です。2017年8月18日に発売された、5か月ぶりの第11巻の内容を大まかにまとめると、以下の3点に集約されます。
1.「稲妻強盗」坂本・お銀 VS 鶴見中尉小隊
2.尾形百之助の過去回想
3.動物偏愛家・姉畑支遁の犯行による谷垣の冤罪(未解決)
1の稲妻強盗夫婦はともに斃れ、2の姉畑の件はまだ解決はしていないものの、おそらく次巻あたりで決着がつき、彼も退場することでしょう。よって今後の展開を考えるならば、注目すべきはついに明かされた尾形の過去です。彼の冷徹さを形成したと考えられる幼少期と家族関係をメインに考察します。
内容考察①|尾形の家族関係とかすかな変化?
冷徹でバアチャン子の尾形を作った“父母殺し”の過去
尾形の過去が語られたのは、第103話「あんこう鍋」。尾形がエリート軍人である花沢幸次郎中将の息子だということはすでに明かされていましたが、今回さらに尾形の母は芸者上がりの妾であるため、父の姓を名乗れなかったことなどがわかりました。
しかしそれよりも特筆すべきは、父・母・兄を手にかけたのが尾形自身であったことでしょう。しかも母を殺した動機を、彼女が待ち焦がれた父に葬式で会わせてやるためだったと淡々と語る尾形。サイコパスのテスト問題にも似たエピソードであり、父を待ち続けて狂った母と過ごした幼少期が、彼の冷徹な人格を形成したと考えてよさそうです。
そして尾形が自分を“バアチャン子”と称するのは、母が狂ってからは母方の祖母に面倒を見てもらっていたためでしょう。また彼の射撃の才能の芽生えとして、幼少期からの鳥猟についても語られ、これまで謎の多かった尾形百之助という人間の本質に、一気に迫る内容となりました。
谷垣ら杉元一行に対する尾形の態度の軟化
尾形の過去が紐解かれ、彼の孤高のスナイパー然とした振る舞いにも合点がいった第11巻。しかしそれとは裏腹に、尾形の態度は杉元らと行動を共にするうち、徐々に軟化しているようにも感じられます。
杉元一行に加わるまでは全く考えが読めない不気味なスナイパーだった尾形。鶴見中尉から土方に寝返ったことも、彼が人に心を開かず自分の利害のために行動しているゆえでしょう。しかし獲物を撃ち取って得意げな表情を見せるなど、少しずつ人間味が表れています。
そこにきて今回の回想です。これはおそらく、読者の心を尾形に近づけるのが目的。つまりこの先、彼が決定的に変わる、あるいは彼の内面が掘り下げられる展開があるということでしょう。
鯉登・尾形とのやりとりからうかがえる鶴見中尉の人心掌握術
尾形の回想から得られたのは、彼の人格形成の基盤だけではありません。人の心を絶妙に掌握する鶴見中尉のやり口も明らかになりました。革職人・江戸貝の時も元マタギの谷垣の時も、そして今回の尾形の時も、鶴見中尉は相手の心の軸となる部分に触れ、理解を見せることで懐柔してきたようです。中でも親にも理解されなかった性癖を認められた江戸貝などは、鶴見中尉に対し信仰にも近い気持ちを抱いたことは理解できます。
では江戸貝に負けずとも劣らない鶴見中尉信仰を抱く鯉登少尉は、そうなるまでに一体どんな経緯があったのでしょうか…。これは今後明かされるのを待つしかなさそうですが、非常に気になるところです。
内容考察②|谷垣とインカラマッの接近
一方ちぐはぐな印象のあった谷垣・インカラマッ・チカパシのアシリパ捜索隊ですが、こちらは情に厚い谷垣の性格もあって、まるで本当の家族のように…とはまだいかないものの順調に打ち解けていっているようです。まだ得体のしれない女占い師インカラマッと、ほだされやすい谷垣。
彼らが本当の家族となる展開が、一波乱、二波乱超えたこの先に待っているのかも。
内容考察③|稲妻強盗夫妻の赤ちゃんの意味とは
今後登場しないことがほぼ確定した稲妻強盗夫妻。しかし彼らが遺した赤ん坊が、この先全く物語にかかわらないということはないでしょう。とりあえず鶴見中尉によってアシリパのフチに預けられましたが、どんな役割を果たすのでしょうか。フチが自分の死装束の準備を始めたことと関係はあるのでしょうか。
アシリパの名が「未来」の意味を持っていたり、チカパシもその名の通り「勃起」を知って力強く成長していったりすることを考えると、この赤ん坊もおそらく物語にプラスの要素として働きそうな予感がします。
内容考察④|稲妻強盗夫妻と姉畑は実在の人物から
坂本慶一郎は実在の強盗犯、お銀との関係はボニー&クライド
第11巻で鶴見中尉らを相手に大立ち回りを繰り広げた坂本慶一郎。ピカレスク的な悪のフェロモンと、一瞬一瞬を燃えるように生きる姿に、魅力を感じた人も多いことでしょう。『ゴールデンカムイ』においては変態要素のかなり薄い罪人です。
おそらく彼のモデルは、明治時代の日本の大強盗・坂本慶次郎。驚異的な足の速さから「稲妻小蔵」、「稲妻強盗」と呼ばれた点も類似しており、まず間違いないでしょう。そして彼と運命を共にする蝮のお銀との関係は、アメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返し、逃避行の末、悲劇的な最期を迎えたボニー&クライドだと考えられます。この2人の逃避行は『俺たちに明日はない』という映画にもなっているので、興味のある方はどうぞ。
姉畑支遁 ≠ 『シートン動物記』のアーネスト・シートン
変態フレンズこと姉畑支遁(あねはた しとん)の元ネタは、特徴的な髪形やひげから考えても、おそらく『シートン動物記』の作者アーネスト・トンプソン・シートンです。
しかしもちろんシートンに関しては姉畑のような変態的なエピソードは影も形もなく、かつボーイスカウトの創生にもかかわった人格者として伝えられているので、決して誤解のなきよう!
各陣営の刺青人皮の枚数まとめ
稲妻強盗・坂本慶一郎の刺青は鶴見中尉が手に入れ、鶴見小隊のもつ刺青は写しを含めて本物が5人分と贋作5枚となりました。一方、現在杉元たちのもつ刺青は写しを含め6人分。土方一行の刺青は写しを含めて本物が6人分、と真贋不明のものが1枚です。
第12巻は2017年12月19日!のっぺらぼうの正体とは!?
これまで『ゴールデンカムイ』は一定のペースで刊行されていますが、第12巻は2017年12月19日に発売されます。第12巻で描かれるのは、まず姉畑の捕獲と谷垣の釈放ですね。また引き続き尾形の態度と谷垣一行の関係性も変化していくことでしょう。登場人物が一人一人掘り下げられて、着々と物語が核心に迫っていますね。
そして何と、これまでアシリパの父ということで確定しつつあった「のっぺらぼう」の正体について、新たな説が浮上します。改めてこれまでの情報を整理し、考察を深めるのにいい区切りとなるのではないでしょうか。先だって発表されたTVアニメ化の発表とともに、これからも要チェックです!