夏休みになると観たくなる映画に『サマーウォーズ』を挙げられる方も多いのではないでしょうか。今回は『サマーウォーズ』に込められたテーマと演出の意味を考察していきます。これを読めばもう一度『サマーウォーズ』が観たくなるかも!?
細田守監督の長編アニメーション映画三作目!
細田守の経歴は?
今回取り上げる映画『サマーウォーズ』はアニメーターである細田守の、監督作品としては三作目、オリジナル作品としては初の長編アニメーション映画です。
細田守は今作以前から短編映画である『劇場版 デジモンアドベンチャー』シリーズの監督として注目され、2006年に公開された『時をかける少女』が、興行規模がわずかだったにも関わらず大ヒットを記録し、一躍日本を代表するアニメーターの一人として認められました。
そしてその次の作品であり、今回紹介する映画『サマーウォーズ』も大ヒット。以来3年ごとに『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』とヒット作を連発し、「細田守監督作品」はスタジオジブリ作品に匹敵するほどのブランド力を確立しました。
躍動感溢れるアニメーションに注目!
「主人公が様々な空間を駆け巡るアニメ」と聞いて宮崎駿作品を思い浮かべる方も多いかと思いますが、宮崎作品から強い影響を受けたことを公言している細田守も、躍動感溢れるアニメーション演出を多く盛り込んでいます。
映画『サマーウォーズ』で言えば、OZの中におけるキングカズマの動き、『時をかける少女』のタイムリープする場面、『おおかみこどもの雨と雪』の雨と雪が走り回るシーンなど、キャラクターの生き生きとした躍動感がとても素晴らしいです。
丁寧に演出された「日常」
地味な部分ですが、細田守が意識的に描いているのが「アニメの中における日常」の風景です。
「日常の何気ない仕草をアニメで表現すると、そこにそのキャラクターが生きているように感じられる」と細田守本人も言っているように、「日常」の場面を丁寧に描くことで、彼の作品の中には本当にそのキャラクターが実在しているかのような感覚にさせられます。『おおかみこどもの雨と雪』の中で、花が雨と雪の世話する日常描写が印象的だった、という方も多いかと思います。
アニメで描くリアルな「日常」の風景
陣内家の実家感
それでは、今作における「日常」の風景はどのように描かれているのでしょうか。まず特筆すべきは、劇中の舞台である陣内家での生活の様子がリアルだということです。家の中の細かなディティールによって、本当にそこで陣内家が生活しているかのような気分にさせられます。料理を作ったり、お風呂に入ったり、子供たちは走って遊んだり、我々が普段見ている光景がアニメの中で繰り広げられていきます。
子どもを使った日常表現
アニメの中の日常性を体現する存在として、子供たちは欠かせません。彼らが遊んでいる様子を見るだけで、そこに日常があるように感じられます。
今作の中盤で、栄おばあちゃんに突然の死が訪れ家族全員で悲しんでいる状況で、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたためその子の母親が乳を与えにいく場面がとても印象的でした。大切な人の死という悲しい状況においても、それでも生活は続いている、ということを強く印象付ける演出だったと感じます。
映画における「フード理論」とは!?
今作で最も日常性を表しているのは、食事のシーンではないでしょうか。陣内家が一堂に会しての食事のシーンは、食べているキャラクター全員が生き生きとしています。
ここで映画の演出力を判断する基準である「フード理論」というものを紹介したいと思います。「フード理論」とは、お菓子研究家である福田里香さんが『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』という著書の中で提唱したもので、映画などの物語において登場人物の特性と食べ物の扱い方にある種の法則性がある、というものです。
この「フード理論」は「フード三原則」から成っており、「1、善人は、フードをうまそうに食べる 2、正体不明者は、フードを食べない 3、悪人はフードを粗末に扱う」というもので、さらにこの三原則を発展させて、「一緒に食事をすれば、それは仲間になった証」などがあり、古今東西の良い映画とされている作品はこの「フード理論」に当てはまる演出をしているそうです。
映画『サマーウォーズ』を「フード理論」の観点から見てみると、間違いなく良くできた演出になっていると言えます。健二や陣内家の人々はみんな美味しそうに食事をすることによって、親しみやすさを感じます。また、陣内家に入れない存在であった侘助は、最初は一人でビールを飲んでいますが、彼が陣内家に受け入れられた後はみんなと一緒に食事をしています。食事によって彼と彼の周囲との関係性を見事に表現した演出です。今作を見直す時は、特に食事のシーンに注目してみるのも面白いでしょう。
急いでいる時こそみんなで食事を取るってサマーウォーズで学んだ、だから僕は朝ご飯食べる
一人だけど— たての じんしょうき (@Jinshoki_TTN) April 27, 2017
サマーウォーズみたいに親戚たくさん集まってワイワイ食事するの少し憧れる
— あまよ (@Worker_amayo) January 4, 2016
「日常」からかけ離れた「OZ」の世界
「OZ」の名前の由来は?
「日常」の描写を大切にしていた細田守ですが、今作は「日常」と、ネット世界である「OZ」の中の世界の双方が舞台になっています。今作ではこのネット世界「OZ」の中の混乱が、健二たちが暮らしている「日常」の世界も混乱に陥れますが、これは細田守が監督を務めた短編アニメ『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の新種デジモンによって世界が混乱していく様子と重なります。
ちなみに、この「OZ」という名前ですが、これは細田守監督が現在の東映アニメーションに所属していた頃にスタジオの近くにあったスーパー「LIVIN OZ」から取ったそうです。当時の感覚としては自宅とスタジオと「OZ」の三ヶ所だけが細田守監督が所属している世界だったためこの名前を用いたそうです。
現在の人工知能を予言していた!?
「OZ」の中で他のアバターを次々と乗っ取っていく「ラブマシーン」なるAI(人工知能)が登場しますが、2017年現在における、AIが人間の知能を超えてしまうことへの先見性を持っているあたりが、2017年現在にこの作品を鑑賞した時に驚く部分ではないでしょうか。
囲碁や将棋の分野ではAIが人間の名人に勝ってしまうという現象が起きていますが、この現実のAIも劇中で侘助が言うような学習型のAIであり、現在のAI事情を完全に予言しています。
テーマは「人と人とのつながり」
「陣内家」と「OZ」
今作は現実世界である「陣内家」とネットの世界である「OZ」の両方が舞台になっています。しかし、それぞれの世界がかけ離れているにも関わらず、どちらの世界においても言えることは、「人と人とのつながり」がとても重要ということです。
「ラブマシーン」の暴走によって現実世界が混乱している時に、秩序を取り戻すきっかけになったのは、陣内家の城主・栄おばあちゃんの親族や友人とのつながりのお陰でした。この栄おばあちゃんは劇中においても他人とのつながりの大切さを説く場面もあり、今作のテーマを体現しているキャラクターと言えるでしょう。
ネット世界である「OZ」においては、夏希が「ラブマシーン」に花札で戦いを挑む場面の賭けられるアカウントが無くなった際、彼女が戦いを続けられるように見ず知らずの人々がアカウントを提供します。人とのつながりはどんな時代のどんな世界においても普遍的に大切なことである、ということを示すシーンになっています。
「大切なのは手を離さないこと」
主人公である健二は映画の終盤で、自身の家庭での境遇を吐露します。彼は他人とのつながりが希薄になってしまった現代の高校生を体現しているキャラクターでしたが、陣内家との生活の中で彼自身も人とのつながりの大切さに気付き、成長していくストーリーになっています。
映画の冒頭では夏希に触られただけで顔が真っ赤になっていた健二でしたが、夏希が悲しんでいる場面で彼女の手に自分の手を添えることによって夏希を一人で悲しませないようにするあたりに健二の成長が伺えます。
健二と夏希が手を重ねるシーンも心象的でしたが、手の演出では栄おばあちゃんと侘助の過去の物語での演出も印象的でした。朝顔が植えられている道を昔の二人が手を握って歩いている場面です。実の子だろうが養子だろうが関係なく、「大切なのは手を離さないこと」、これは栄おばあちゃんが手紙の中で言っていることでもあります。
朝顔の意味とは?
夏希が陣内家に帰った時に、栄おばあちゃんから朝顔の柄の浴衣を渡されます。朝顔は栄おばあちゃんが来ている着物の帯にも描かれており、陣内家にも沢山の朝顔が植えられていることから、今作における象徴的なモチーフと言えるでしょう。
朝顔には、支柱にしっかりとツタを絡ませることから、「固い絆」という花言葉が付けられており、まさに今作のテーマと合致したモチーフになっています。栄おばあちゃん自身この花言葉を知っていたために、たくさんの朝顔を育てていたのかもしれません。そして映画の最後で夏希は朝顔の浴衣を着ています。栄おばあちゃんの「人と人とのつながりを大切にする」、という想いはしっかりと若い世代である夏希にも受け継がれたことを意味している演出です。
朝顔を使った細かな演出が多い作品になっています。朝顔の花言葉を念頭において観賞すると、丁寧に演出された映画であることがわかりますので、ぜひ注目してみて下さい。
サマーウォーズでずっとお庭にある朝顔(°∀°)ストーリーに絡んでくるわけでもないけど、要所要所で朝顔が時間経過とか表現の1つとして出てくるの好き。ラストの満開の朝顔と満面の笑みの写真がスゴく素敵。
— 夏戦 (@seima_n) July 23, 2017
サマーウォーズは定期的に観たくなるし朝顔柄の浴衣が欲しい( ˘ω˘ )
— A (@aki_69_icoN) May 10, 2016
最後に…、山下達郎の主題歌の歌詞にも注目!
映画の最後にエンドロールで流れる山下達郎の『僕らの夏の夢』の歌詞にも注目してみましょう。山下達郎が今作の主題歌のために作詞作曲した曲ですが、こんな歌詞が出てきます。
「手と手を固く結んだら 小さな奇跡が生まれる」
この歌詞はまさに今作におけるテーマそのものを歌っています。
「幾千の愛の記憶を 僕らは辿って行こうよ とこしえに君を守るよ 僕らの歴史が始まる」
「幾千の愛の記憶」とは栄おばあちゃんを始め陣内家の人々がこれまで築いてきた「人と人とのつながり」のことです。そして若い世代である健二と夏希も、先人たちが築いてきたつながりの歴史に加わり、その想いを守っていく、ということが示された歌詞になっています。
時代が変わってネットの世界が中心になったとしても、普遍的に大切なのは「人と人とのつながり」ということを教えてくれる映画です。夏休みに家族みんなで鑑賞するのがオススメです!