B級SF映画のような雰囲気なのに、有名な俳優たちが出演していることで話題の映画『ライフ』。今回はこの映画のタイトルの意味や、これまでの同じジャンルの映画との比較を見ていきたいと思います。ネタバレを含みますのでご注意ください。
『ライフ』はB級映画感満載の傑作!?
夏休みにピッタリ(?)なB級SF映画!
今回取り上げる映画『ライフ』ですが、ポスターや予告編から漂ってくるのはずばり「B級映画感」でしょう。あらすじをざっくりと説明すると、ISS(国際宇宙ステーション)で活動している宇宙飛行士が、火星で発見した未知の生命体に襲われる、というもので、ストーリーが定型化された、「ジャンルムービー」というものに分類される映画です。
この「ジャンルムービー」はストーリーに注目するよりは、そのジャンルにおける映像表現手法をどのように更新しているか、が評価の分かれ目となってくるのですが、映画『ライフ』はどうだったのでしょうか。
『ゼロ・グラビティ』+『エイリアン』?
映画の冒頭、登場人物が無重力状態でISSの中を活動する様子がワンカットで流れます。このシーンは完全に『ゼロ・グラビティ』を意識している部分でしょう。天才カメラマン、エマニュエル・ルベツキの長回しによるワンカットの無重力映像が話題となった作品でしたが、2013年に公開されたこの作品と比較しても、技術的な進化の成果もあってか、大人数のクルーが映る無重力映像をワンカット風に仕上げている点で、見応え充分なシーンとになっています。
また、未知の宇宙生命体に襲われるという展開は『遊星からの物体X』や『アビス』などと類似していますが、今作が最も近いのはやはり『エイリアン』シリーズです。設定もそのままですし、睡眠ポッドに逃げるシーンや、火炎放射器で応戦するシーン、また宇宙生命体の主観映像を入れる部分まで、『エイリアン』シリーズへのオマージュに溢れた作品でもあります。
映画「ライフ」を観てきました!ベタなエイリアンものだけど、ちゃんとオリジナリティもあって満足しました。今年は「コヴェナント」も控えていて、(個人的に)エイリアンイヤーになりそう!
— Masataka Masunaga (@Rikou1105) July 20, 2017
『ライフ』@丸の内ピカデリー2。大きなスクリーンで見られて良かった。大傑作。ジャンル映画あっぱれだけど、これB級映画なんかじゃないよ。超大作です。
— POSTER-MAN (@postermantoru) July 20, 2017
よくあるB級映画とココが違う!
B級映画でもキャストはA級!
今作の最大のウリはなんといっても、ジャンルムービーには勿体無いほどの豪華キャストの共演でしょう。ハリウッドを代表する演技派俳優ジェイク・ギレンホールに、『ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション』に出演のレベッカ・ファーガソン、『デッドプール』で一躍スターの仲間入りを果たしたライアン・レイノルズ、そして日本が誇るアジアスターの真田広之らが、B級映画にはもったいないほどの華やかさを与えています。
『デッドプール』と同じ脚本家が今作に参加していることもあるため、ライアン・レイノルズのギャグシーンは恐らくアドリブと考えられます(ハリウッドのコメディ映画はコメディ俳優のアドリブをそのまま活かす作りが基本です)。
今作における新しい映像表現は?
毎度お馴染みのストーリーに沿って今作は進んでいきますが、個々の表現にも新しいアイデアが込められています。まずはなんといっても未知の生命体「カルビン」の造形でしょう。大きなイカの塩辛のようなその容姿はとても無機質で、まさに「生命体」という言葉そのものを具現化したような掴みどころのない造形になっています。
また、このカルビンの最初の攻撃は生物学者のヒューの指を折るという、一見地味だが傍から見ていてもかなり痛そうなもので、このシーンは予告編でもメインで用いられるほどのインパクトを持ったシーンであり、今作の注目ポイントです。
これまでB級映画のエイリアンは、何故人間を襲うのか動機が分からないものも多かったのですが、カルビンは水を求める、という生物学的にも明確な目的のもとで人類に対し攻撃してきます。キャット司令官が船外で襲われるシーンも、カルビンは彼女を殺したくて殺そうとしている訳ではなく、宇宙服の水を得るために攻撃しており、このカルビンの無機質な動機が、今作における「襲われたら一巻の終わり」というような緊張感を高めています。ちなみに、キャット司令官の最期も、これまでの宇宙ものの中でもありそうでなかった演出でとても斬新でした。
タイトル『ライフ』が示すこととは?
映画の序盤における「生命(ライフ)」の意味
この映画には『ライフ』というタイトルが付けられている通り、「生命」や「生きる」ということを強調するような内容になっています。
映画の序盤では「生命」とはとてもポジティブな意味を持っています。エンジニアのショウには赤ちゃんが生まれて周囲のクルーから祝福され、火星で未知の生命体が発見された時も世界中が大騒ぎになり、地球の子供たちから「カルビン」と命名されて発見を祝われます。
しかし、この祝福すべき生命体が人類に牙を向いた瞬間に、「生きる」ということの意味は相対化されていきます。
頻出する「心拍数」の意味は?
この映画ではジェイク・ギレンホール演じるデビッドが船内の医師として他のクルーたちの健康状態をチェックする場面が頻出するのですが、その中でも特に心拍数を気にする場面が繰り返し出てきます。心臓が動いているということは「生きている」ということの証でもあり、これを維持し続けるためにクルーたちはカルビンを退治しようとします。
必死に生きようとしているのはクルーだけではなく、カルビンも同様です。この生命体は水を求めてクルーを襲い続けますが、これは自分の生命機能を維持するためでしかありません。クルーたちとカルビンの戦いは、共存関係を築けない二つの種による、まさに「ライフ」を懸けた戦いなのです。
「生命(ライフ)」の負の側面とは?
クルーたちが殺されていく中、デビッドとミランダは二つの脱出ポッドを使ってミランダは地球に生還、デビッドはカルビンを道連れに宇宙の彼方へ連れて行くという作戦を実行します。しかし、実際にはそれぞれのポッドが逆の軌道を辿ることになり、ミランダは宇宙の彼方へ、デビッドはカルビンと共に地球に生還してしまいます。ここで、「ライフ」という意味が映画の冒頭とは完全に逆転します。デビッドは地球に生還することには成功しましたが、それはすなわち、人類の終焉を意味しているのです。
この映画のラストは、映画『ミスト』のラストと意味合い的に似ています。共に映画の冒頭では「生きる」ということを肯定的に描き、映画の中で経験する出来事によって「生きる」ということの意味が相対化され、そしてラストには「生きる」ことが不幸な結末を招きます。この映画『ライフ』の不条理なラストの雰囲気も、B級映画だからこそ表現できるものかもしれません。
「ライフ」
見てる間、何度も午後の12chのTVを思い出すジャンル映画なのに、豪華な画面からふいに漂い出す大作感。…にも関わらず、ラストの意地悪さで一気にB級映画に振り切っちゃう潔さが最高!
— 井出 誠 (@idemasamune) July 20, 2017
映画『ライフ』を観ました。おもしろい映画ですが結末が悲劇的すぎます。似たようなタイトルの映画がたくさんありそうですがSFホラー映画です。ハッピーエンドになるかと思いきや悲劇的な結末になるなどハリウッド映画らしくない結末の映画です。アメリカでは批評家に好意的に評価されたみたいですが
— フォルモサ_チョアへ (@_99445792) July 20, 2017
映画『ライフ』の個人的総評と感想
良かった点
- 一流の俳優を揃えたことと、最初にライアン・レイノルズが殺されることによって、次に誰が殺されるのか分からないという緊張感が持続されていたと思いました。
- 冒頭の長回しによる無重力表現のシーンは見事でした。人物が多い分、個人的には『ゼロ・グラビティ』よりも上だと感じます。
悪かった点
- やはり、既視感のある場面も目立ちました。特に終盤のカルビンを撃退しようとする場面は、他のモンスター映画で何回も見た展開で、そこにももうひと工夫ほしかったです。
- 監督がキャストの自然なリアクションを引き出すために、「役者的な演技を今回はしないように」という注文をしたようですが、真田広之がタブレットを通して妻の出産を応援する時にかける言葉まで、どこかセリフの棒読みになってしまっている感じがして、真田広之演じるショウをあまり好きになれませんでした。
100点満点中75点!
B級映画であることは間違いありませんが、様々なアイデアが入った良作だと感じました。夏休みの時間が空いた時に軽いノリで鑑賞するのにピッタリな1本です!