『僕のヒーローアカデミア』の爆豪勝己はなぜ主人公・緑谷出久をここまで意識し、嫌悪するのでしょうか。作品内であまり描かれることのない爆豪の心情、幼少期から現在までの精神面での成長や出久との関わり、そして出久への気持ちがどう変化していったのかなど爆豪の「内面」を中心に独自に考察してみました。
『僕のヒーローアカデミア』の爆豪勝己とは
爆豪の個性はそのままズバリ「爆破」
爆豪勝己は4月20日生まれ、作中では15歳で雄英高校1年生です。彼の個性は「爆破」。まるで彼の性格、性質をそのまま個性にしたかのようで、わかりやすいです。掌の汗腺が変異していて、そこからニトロのような汗を出し爆発させることができるもので、彼のこの個性は幼少のころに発覚していました。
主に攻撃メインで使いますが、使い方によっては後ろ手に出して加速したり火力で空中を舞うことも可能です。こういった動きには火力の調整などが重要になってくると思いますが、爆豪は元々センスがある人なのでそのあたり器用にこなせているのがすごいです。現状、個性を「ものにでき且つ使いこなせる」という点では轟らと並び、雄英でのトップクラスの生徒と言えると思います。
爆豪勝己を演じるのは声優の岡本信彦
アニメで爆豪勝己を演じるのは声優の岡本信彦です。岡本は1986年生まれ、アニメ声優としてのデビューは2006年の『N・H・Kにようこそ!』で、以降『sola』で森宮依人役、『とある魔術の禁書目録』でアクセラレータ役などを演じ、2012年には『メタルファイトベイブレードZERO G』にて主人公の黒銀ゼロ役を演じました。熱血キャラから冷酷非情なキャラまで幅広く演じられる声優で、2009年には第3回声優アワードにて新人男優賞を受賞、2011年第5回声優アワードにて助演男優賞を受賞しています。
『ヒロアカ』の爆豪を演じるにあたり、岡本は原作をきっちり読み込んで「爆豪勝己」というキャラを把握してから臨んでいる様子なのが各インタビュー記事などからも伝わってきます。演じ方によっては爆豪は「嫌われキャラ」になってしまう、だから子供っぽく、若気の至りとして見えるように演じていると語っていました。
個人的に、「爆豪はツンデレではない」と語っていたところが印象的でした。これは原作ファンにとっては大半の方が共感できる部分だと思いますし、岡本がいかに爆豪勝己というキャラを「読み取ってくれているか」が分かるところです。
出久に対する優越感は焦りへと変化
ともかく見下していた幼少期
幼少期にすでに個性が発覚していた爆豪は友達からは羨望のまなざしを向けられ、周囲の大人たちからはすごいと賞賛の言葉を浴びまくってしまったがために「俺ってすごいんだ」と思ってしまいました。元々の性格もあるのでしょうが、傲慢であり、特に、個性のない出久を容赦なくからかい、嘲笑ってきました。
個性のない、気弱な少年をなぜあそこまで執拗にからかっていじめるのか、相手にしなければいいのにとも思うのですが、なぜか爆豪は出久を構い続けていました。自分が強いんだということを弱い少年をいじめることで常に確信し、安心したかったのでしょうか。
川に落ちた彼を出久が心配して救けにきたシーンでは、「強い」自分を「弱い」出久が「心配して」救けに来たことに彼はプライドを傷つけられ、怒るわけですが、あの時、とっさにすぐ自分に手を差し伸べてきた彼にもしかしたら既に「脅威」を感じていたかもしれません。
脅威を抱き始めたきっかけとなるヘドロ事件
ヘドロ事件に巻き込まれたとき、個性も持たないのに自分を助けようと駆け寄ってきた出久を、爆豪はどんな気持ちで見ていたのでしょう。そこにはっきりと、彼も出久に「ヒーローの姿」を、自分にもない、ヒーローとしての素質を、彼の中にあの時見たんじゃないでしょうか。これは爆豪にとっては脅威だったと思います。そしてこのときの出久の行動は上記した、川に落ちた時にとっさに自分を助けにきたあの出久と重なったことと思います。
もし出久に個性があったら、出久の方が強かったかもしれない、そう感じたのではないでしょうか。そしてそれは彼にとってはあってはならないことです。「君が救けを求める顔してた」、こう言われたこともとても屈辱だったでしょう。
このシーン、一瞬爆豪が態度を改めるのかなと思った方も多いかもしれません(筆者はそうでした)。ですが爆豪はツンデレキャラではなかった。歩み寄るどころかさらに彼にとっては出久に対して「面白くない」と思う要因を増やすこととなってしまったように思えます。
雄英高校入学後は個性を隠していたと怒りを露わに
出久は個性がなくてもまだヒーローになりたい夢を諦めていないことを爆豪は知っていました。それもきっと「鬱陶しい」と思ってたのではと思います。とっとと諦めて自分の眼前から消えろくらいに思っていたでしょう。それは出久を心のどこかで脅威に感じていたからです。でも個性がなければ雄英高校に入ることなど到底できない、ですから爆豪はその点では安心はしていたと思います。
ところが出久は雄英高校に入学を果たしました。個性がないことを知っていた爆豪からしてみたら「なぜ?」と思いますし、まさかあのオールマイトから個性を「与えられていた」なんて想像もできませんから彼は出久が実は個性をずっと持っていたのにかかわらず隠していたと思いこみ、自分を騙していたと怒りを爆発させます。
ただ、この思考に辿りついてしまった爆豪を筆者は責められないと思っています。こう考えるしか理由が思いつかないですから。幼少時の出久の爆豪に対する態度を考えれば、もしあの時個性を持っていたとするならどれだけ自分を馬鹿にしていたんだと思っても仕方ないと思います。そして入学後の訓練で、爆豪は、ずっと自分に劣る、適うはずがないと思いこんでバカにしていた相手に完全に負けてしまった。これまでの爆豪の言動を思えば出久に肩入れをした人が多いと思いますが、でも爆豪の気持ちも痛いくらいに分かります。挫折を知らなかった彼が初めて挫折し、流した涙はこちらの涙も誘いましたし、アニメでは岡本の熱演も光りました。
デクと「本音を話し合った」バトルで何が変わったのか
爆豪VS出久 パート2
期末試験が終わったところで、爆豪は色々なことから考え合わせて出久の個性はオールマイトからもらったものではないかとなんとなく感じ取っていました。爆豪にとってもオールマイトは、出久が憧れていたのと同じように、憧れであり目指すヒーローだったのです。
でもそのオールマイトは自分じゃなくて出久を選んだ、それはずっと自分より下だと思っていた出久に、あの時からすでに「負けていた」ということを示されたようなものです。このとき出久に「戦えや」と言ったのは、オールマイトがなぜ出久を選んだのか知りたい、というのもあったと思いますが、自分がここまで積み上げてきたものが間違っていたのかそうでないのかを確かめたかった、というのもあったと思います。
自尊心の固まりだった爆豪がようやく前に進めるようになった
お互いボロボロになるまで戦った結果、爆豪VS出久の2回戦は爆豪に軍配があがりました。爆豪の努力、積み上げてきたもの、信じてきたものは間違っていなかったのです。これが分かっただけでも、このバトルは「意味のない戦い」などではなく、彼が今後進んでいくのに必要なことだったと思います。そしてこのときオールマイトから直接、理由が聞けたことも爆豪にとって救いであり、ようやく抱えていたモヤモヤを振り払うことができたと思います。「すまない 君も少年なのに」この一言にオールマイトの苦悩、優しさ、全てがこもっていました。爆豪もようやくここで受け入れられたのだと思います。
このバトルでは、幼少からの付き合いである2人が初めて「本音」をぶつけ合いました。「ずっと気色悪かった」「目障りだった」と爆豪が言えば、出久は「オールマイトより身近な凄い人だった」「ずっと君を追いかけていた」と言う。この後2人が仲良くなるかと言えばそんなことはないのですが(それでこそ爆豪というキャラがブレていない証拠)、それでも爆豪の中で何かが確実に変わった出来事だったと思います。
かっちゃんとデクはきっとよい相棒となる!
オールマイトに「互いに認め合いまっとうに高め合うことができれば最高のヒーローになれる」と言われた爆豪と出久。爆豪がこのとき、静かにそれを聞いていたところは印象的でした。爆豪は決して「ツンデレ」キャラではないですし、今後もデレることなく、高圧的な態度は変わらないのだろうと思いますが、出久とはお互いの足りないところを補い合えるよい相棒として、ツートップ的な形でヒーローたちをけん引していく存在になっていくのかなと思います。
最後になりますが、爆豪は第二回人気投票で前回1位の出久をおさえ、堂々の1位を獲得しています。ファンは彼の長所も短所も理解したうえで大好きなんですよね。今後もブレることなく、そのままの爆豪で突っ走っていってほしいなと思います。