大友克洋の『AKIRA』が、今また注目されている? 斬新な表現と圧倒的な画力で描かれた超能力SFの名作『AKIRA』。発表当時に大旋風を起こし、今なお評価されている理由は何なのか。今の時代こそ、魅力からテーマまで、この名作を徹底考察してみます!
記事の目次
偶然?『AKIRA』が予言していた2020年の東京オリンピック
『AKIRA』は原作漫画の連載が1982年から1990年、アニメ映画化が1988年になされた大友克洋のSF作品です。連載・映画化当時、国内外の漫画マニアを熱狂させた人気コンテンツですが、近年また、この作品に注目が集まっています。
その理由は、ズバリ“東京オリンピック”! 『AKIRA』ではなんと2020年の東京オリンピック開催を予言しているのです。原作第1話、オリンピック予定地での会話にその記述があります。しかしこのオリンピック、原作ではに東京の壊滅によって開催中止になるのです。何とも縁起が悪い話ですし、東京オリンピックの開催年が重なったのは単なる偶然のようです。しかしだからこそ予言なのかも?
しかしオープニングセレモニーで映画版『AKIRA』の音楽を担当した芸能山城組が演奏を披露し、金田のバイクが走り回ったりすると最高にクールなパフォーマンスができると思うのですが、果たして2020年の本番は?
凄い①|圧倒的画力!影響を受けた漫画家も多数
手塚治虫も嫉妬した?斬新すぎる細密かつ写実的な絵
『AKIRA』の何がすごいのかというと、最もわかりやすいのは絵ではないでしょうか。「マンガは大友克洋以前と以後に分かれる」と言われますが、確かに彼が現れるまで、漫画の絵というのは太く強弱のある線で、デフォルメして描くものでした。対して大友の絵は、細い線で写実的に描かれ、写真や映像を意識した表現がふんだんに用いられています。まさに実際“そう見える”ように描かれている彼の絵に、当時の漫画ファンたちは国境すら越えて驚愕しました。
そんな大友の絵に影響を受けた漫画家は多く、その中でも有名なのが鳥山明と岸本斉史です。鳥山明が『AKIRA』に熱狂したであろうことは、『DRAGON BALL』を見ても明らか。岸本斉史は『NARUTO』の単行本で熱い『AKIRA』愛を語っています。
しかし決して大友を誉めなかったのが、漫画の神様として知られる手塚治虫です。といっても手塚の否定は嫉妬の裏返しと言われており、それだけ大友の絵が当時の漫画のレベルを超越していたということの証拠でもあります。
鉄雄も欲しがった金田のバイクがカッコ良すぎる!
AKIRA 〈DTS sound edition〉(出典:Amazon)
また大友作品の中でも『AKIRA』は特に、メカのデザインセンスが優れた作品です。近未来の都市を駆る少年たちのアイテムとして、主人公・金田のバイクはカッコ良すぎました。正直あのバイクなくしてはここまでの人気作品にはならなかったでしょう(実際、大友の著作の中で『AKIRA』は知名度抜群)。サブカルオタクもバイク好きも熱狂させた金田の愛機は、公式・非公式併せて何度もフォルムの再現がなされています。ファンに最も実用化が望まれているアイテムだといえるでしょう。
ハリウッド版の実写映画の企画がありますが、このバイクを見事に再現できれば、内容はどうであれその点だけはファンに絶賛される可能性もあるかも?
凄い②|世界を震撼させた劇場版アニメの完成度
動画も音楽も全てのレベルが桁違い!世界中の『AKIRA』に
『AKIRA』が一躍有名になったのは、1988年のアニメ化のときでした。原作漫画は革新的とはいえ、当時はまだマイナーだった青年誌の連載であり、一部のマニアに好かれていたに過ぎません。しかし映画という媒体は世間一般や外国人にもなじみがあるため、爆発的に知名度を上げることとなりました。
そしてもちろん出来栄えは素晴らしいの一言です。通常の何倍ものセル画を使用したことでリアルな絵をリアルに動かし、芸能山城組の迫力ある劇伴音楽も何もかもがそれまでのアニメ映画とは一線を画していました。プレスコの採用により台詞通りに動く口に、それまでにはない不思議な感覚を覚えた人も多いことでしょう。
物語は好みが分かれるものの、動画と音楽に関してはジブリに遜色ない傑作であり、現在でもその完成度は認められています。ちなみに製作費は当時では破格の10億円! アニメ界初の製作委員会方式で資金が集められました。
『AKIRA』の名言は実はアニメオリジナル
「ピーキーすぎてお前には無理だよ」
「さんをつけろよデコ助野郎」(大友克洋監督 映画『AKIRA』より引用)
どちらも有名な『AKIRA』の台詞ですが、実はこの2つとも、原作にはありません。原作を下敷きに、全く異なったプロットで作られた、映画版にのみ存在する台詞なのです。原作にも心に残る名言やエッジの効いたセリフはたくさんあるのですが、この2つが最も有名になったのは、やはりそれだけ映画の知名度が高いということなのでしょう。
ラスト考察|「アキラはまだ俺たちの中に生きてるぞ!」の意味
アキラは「力」「仲間」「未来」の象徴
「アキラはまだ俺たちの中に生きてるぞ!」
(大友克洋 『AKIRA』第6巻より引用)
これはすべての戦いが集結した後、ガレキの山となったネオ東京で、他国からの救援隊をつっぱねた金田の台詞です。タイトルになったものの、作中では目立った活躍のなかったアキラの名を叫ぶのを見て、言わんとすることが理解できなかった人も多いようです。
アキラはこの物語において、キャラクターというよりテーマの象徴です。では作品のテーマは何かというと、「力」「仲間」「未来」。そしてそれらを内包する若者たち、あるいは子供たちだと考えられます。いわば『ガンダム』におけるニュータイプが、アキラなのですね。
金田がアキラ達からえた答えがあのラスト
実験体だったアキラは科学者(=大人)たちの手にはおえず、東京を壊滅させながらも涼しい顔で生き残りました。かつその中で本当の仲間を得て、最後は彼らとともに自分たちの世界へ消えていきます。大人の鑑賞をものともしあい強さ。それこそが、大人たちの思惑など構わずむしろ糧として、自分たちの未来を創り出す若い力の象徴です。
金田は精神世界でアキラ達(実際はキヨコの台詞)からその答えを得て、自分もそれを取り戻しました。それがあの台詞につながるのです。だからこそ彼らは大人たちの手は跳ね除け、自分たちだけの大東京帝国を守ることに決めたのでしょう。生きている仲間も死んでいった仲間もみんな一緒に、自分たちで未来を切り開く。あのラストにはそういった意味があります。(多分)
トリビア|金田・28号の他にも…キャラ名元ネタ一挙紹介
鳥山明を例に挙げるまでもなく、男性作家は往々にして命名が苦手なもの(例外もあり)。そのため、ついつい身近なものや有名作品・実在の人物などをもじってキャラクター名を考えがちです。オマージュやパロディが大好きな大友克洋もその1人らしく、あちらこちらに元ネタのありそうな人名が見受けられるので、それらしきものをまとめてみました。
『鉄人28号』から
金田・島鉄雄・28号(アキラ)・敷島大佐。そもそも『AKIRA』自体が『鉄人28号』のオマージュと言われており、主要人物の名前はこの作品のものをもじったと考えられます。中でも金田は公式設定で「金田正太郎」とされていて、『鉄人28号』の主人公そのまま。おそらくフルネームが原作に出ない(アニメでは「金田正」まで確認できる)のもそのままだからでは。
『じゃりン子チエ』から(?)
アキラの施設での仲間、マサルとタカシの名前ははるき悦巳の長期連載『じゃりン子チエ』からとったと考えるのが妥当でしょう。元ネタでは主人公に意地悪をする2人組です。確証はないものの、大友克洋は『じゃりン子チエ』が連載されていた頃の『漫画アクション』で作品を発表しており、セットで登場させたことからも、偶然の一致と考える方が無理があります。
『なんと孫六』から(?)
金田たちのチームの仲間である甲斐と山形。『月刊少年マガジン』で1981年から実に33年以上も連載された野球(途中でゴルフにも転向)漫画に、甲斐孫六と山形勲というキャラクターが登場します。『AKIRA』連載開始当初、2人はともに物語の重要人物でした。しかしなぜ、あえてこのマイナーな(一部に熱狂的な支持を受ける)漫画からとったのかは謎。しかし山形の髪型が本家と似ているため、ついオマージュではないかと勘ぐってしまいます。そもそも山形の髪型が花形満を意識していそうですが…。
今の時代にとっての『AKIRA』
ハイレベルな作画は依然評価され続けているものの、テーマに関しては語られることすらなくなった21世紀の『AKIRA』。現代社会で大友克洋のメッセージが理解されづらいのは、若者が現状に満足する時代になったからでしょうか。
しかしそんな今だからこそ、この記事を読んだ人にはぜひ『AKIRA』を手に取ってほしいと思います。作画や台詞だけでなく、今こそ取り戻すべきテーマがそこにはあります。