ジブリ『思い出のマーニー』に百合要素は全然ない!作品の考察と感想まとめ





2014年公開のジブリ映画『思い出のマーニー』。2017年夏映画『メアリと魔女の花』で話題の米林監督の作品です。公開前のプロモーションでは「百合っぽい!」と騒然となりましたが、実は百合物語では決してない『マーニー』。マーニーの正体が分かると同時に感動が押し寄せてくる『思い出のマーニー』の魅力を徹底解剖!

米林監督2作品目『思い出のマーニー』とは?


思い出のマーニー(出典:Amazon)

2014年に公開された『思い出のマーニー』。米林監督にとっては、ジブリ2作目となる作品。前回の『借りぐらしのアリエッティ』では、本当は監督なんてやりたくなかったのに鈴木Pの策略によって無理やりやらされたような経緯がありましたが、何と『マーニー』に関しては米林監督から「監督やらせてください」と立候補したんだとか。

宮崎監督は既に引退を表明しており、『アリエッティ』の時と違い、完全に米林ワールドが展開された『マーニー』。公開前にプロモーションが流されるようになると、「百合っぽい!」と話題になるほど、女の子に焦点を当てた物語に仕上がっています。が、その内容は実は百合とは全く違うもので…。

ちなみに、興行収入は残念ながら『アリエッティ』には遠く及ばず、35.3億円どまり。ただ、第88回アカデミー賞長編アニメ部門にノミネートされるなど、国内外の作品に対する評価は高いのが特徴です。

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舞台はどこ?マーニーの正体は?作品の感想

それではまず、『思い出のマーニー』を観た人たちの主な感想を拾っていきたいと思います。みんな、どんなことが気になったんでしょうか?肯定的な感想と否定的な感想、どちらも拾い上げていきます。

感想①決して百合ではないけど、艶っぽい!

米林監督が監督をやりたいと希望して実現した『思い出のマーニー』の映画化。米林監督が監督をやりたいと言った時点では、何をやるかまでは決まっていなかったそうです。なぜ『思い出のマーニー』に決定したかというと、やはりそれは米林監督のアニメーターとしての実力を買われたから!

『思い出のマーニー』のプロモーションが流れ始めたときに「百合っぽい」「まさかジブリが百合を!?」と騒然となりましたが、実は全く百合展開ではないんです。とは言っても、前半部分は「百合展開♪」と思って萌えながら観たという方も多いよう。それほど、マーニーとアンナは魅力的であり、強い絆で結ばれているんです。でも、二人の間にある空気はヨコシマなものではなく、いたって純粋なもの。

本当の二人の関係が劇中でネタバレされた後も、相変わらずアンナもマーニーも可愛いし、魅力的!そういう艶やかさを観客に感じさせる手腕に関しては、米林監督は超一流!ジブリ内でも女の子を描かせたら右に出る者がいないというほど、突出した才能なんですね。

感想②マーニーの正体が分かって感動!

マーニーの正体に関しては、「アンナとマーニーを観た瞬間から(最初から)分かっていたよ…」という人と、「なるほど!そういうことだったのか(驚)!」という人に分かれるようです。

マーニーの正体が分かったからと言って、ストーリーに面白みがなくなるというような内容ではないので、ここでネタバレしますと、マーニー=アンナの祖母です。と言っても、祖母はアンナが幼いころに亡くなっています。つまり、マーニーはアンナが幼いころ祖母と会話した微かな記憶から生まれた幻影なんですね。

このマーニーの正体が分かったあたりから、生き辛さを感じていたアンナが徐々に救われていきます。この怒涛の展開を受けて、やはり「感動した」「感涙した」という声が多数。

マーニーが持っているのは圧倒的な母性。アンナがどんなにひねくれていようと、何も聞かず、何も責めず、全てを包み込むような圧倒的な!そんな母性に触れた観客たちも、マーニーの胸に抱かれたような気持になります。

感想③ジブリにありがちな優等生キャラじゃないとこがいい!

宮崎駿が描く女の子のキャラって、共通点があると思いませんか?例えば、『となりのトトロ』のさつきなんて、小学生なのに妹の面倒をみて、家事もこなして、勉強も頑張っているっぽい…なんて優等生なんでしょう!こんな優等生、学年に一人いるかいないか…ですよね?

…に比べ、『思い出のマーニー』の米林監督が描くアンナは、全く優等生じゃないんです。優等生じゃないどころか、周囲から弾かれ、そのことを自分も分かっていて、世の中全てから背を向けて、それらすべてのことを周囲のせいにしちゃうようなどうしようもないクズなんです。

家族の愛を知らないと言っても、養女に出されている先では、優しそうなお母さんがいます。アンナにしてみれば感謝こそすれ、養父や養母を恨む筋合いなんか無いはずなのに、「助成金をもらっている」というかなり小さいことを理由に、養母らを汚いものでも見るかのような目で見ているのです。

この助成金のクダリは、「理解できる」という人と「理解できない」という人に真っ二つに分かれます。ちなみに筆者は「全く理解できない」派です。養父・養母と言えども、小さな団地に住んでいる庶民。ほんの少しの助成金をもらっているからと言って、アンナにそそぐ愛情は変わらないのに、何をグダグダ言っているのかと怒りさえ沸くほど。

でも、この優等生じゃないところ、理屈じゃ片付かないどうにもならない感情を抱えているところが実に人間臭く、それゆえに自分自身に近づけて観られるという意見もあるんです。アンナにどれだけ共感できるかで、映画の感動度が全く違ってくると思います。

感想④オチのつけ方がズルい!

実は『思い出のマーニー』は、魂の救済の物語なんです。アンナは自分がどんな人から生まれて、なんで自分は捨てられたのかが分からず…つまり自分のルーツが全く分からず、悶々と思い悩み、自分の居場所を見つけられずにいる女の子です。米林監督は、状況は違えど、自分の居場所が無いと悩んでいる全てのアンナ世代の女の子を救いたいという想いを込めて、この映画を作ったそうです。

そして、映画の中で見事にアンナは救われます。が!!! この救い方(オチのつけ方)に賛否両論ありなんです。つまり、アンナにも愛してくれた先祖がいたよというオチなんですが、「じゃあ、こんな先祖さえいない、その愛を知る術のない人は一生救われないのか」という問題が出てくるわけです。

実際、悲しいことに、憎悪の連さの中、生まれた命もあります。そういう命に対する救済の映画にはなっていないということなんです。オチを愛情深き先祖の存在にしてしまったことによって、救われない人が生まれてしまったんです。

確かに、ルーツというのは人間なら誰しも気になるところではあります。でもそれを「すべて」だと言い切ると、やはりそれは違うのかも…と。人間なら、今生きている横のつながりの中で何か解決の方向を見つけるべきだったのではないか、ということですね。ちなみに、筆者は2回目に観たとき、純粋に魂の救済の力を感じてしまったので、今回の記事を書くにあたり、「オチがズルい」という意見があることを知って、「なるほど」と思ったクチです。

感想⑤背景がキレイ!舞台はどこ?

原作はイギリスのものなので、もちろん原作の舞台はイギリスになりますが、ジブリらしく本作でも舞台を日本へと移しています。舞台は北海道。釧路や根室などを取材して回ったそうですが、湿原ということで釧路湿原が濃厚。感想の中には「背景がキレイ」というコメントが多数散見されます。それもそのはず、背景美術を担当したのは、実写映画の分野で数々の功績を残している種田陽平。美しい湿っ地の風景が印象的!

ちなみに、舞台が北海道ということで、なんとあの大泉洋率いるチームナックスがかなりチョイ役ではありますが出演しているとのこと。ファンの方はぜひどの声が大泉なのか、安田なのか、戸次なのか、探してみてください。

有村架純の演技力に驚き!

『思い出のマーニー』もジブリ映画にありがちではありますが、主役二人の声には声優を使わず、俳優をあてています。最初に観たとき、誰が声をあてているのか知らなかったんですが、後にマーニーがなんとあの有村架純だと知り、非常に驚きました。なんせ、全く印象が違うんです。

マーニーは、アンナの祖母という設定柄、かなり落ち着いた印象の女の子です。年の割りには大人っぽく、アンナを大きく包む深い愛情を感じさせる落ち着いた声だったんです。その声を出しているのが、有村架純とは!! 若手女優代表でキャピキャピと可愛らしい印象しか無かった有村架純のイメージが、この映画でガラリと変わりました。

これから『思い出のマーニー』を観るという方は、ぜひマーニーの声に注目してください。有村架純に対するイメージがかなり変わると思います。

『思い出のマーニー』は「人間は弱い」ってことを知った年代の人におすすめ

筆者は、映画『思い出のマーニー』を初めて観たとき、「何じゃこりゃ」と駄作という印象しか持ちませんでした。なぜなら主役二人の気持ちに全く共感できなかったからです。アンナは、一世一代の告白となぜ養母らを拒絶してしまうのかを告白しますが、その原因が「助成金」だったということで…「なんでそんな小さなこと!?」と違和感が…。マーニーに関しては、ダメダメな孫のアンナに対し、叱咤激励すべきところを、何も言わない…というところに違和感が…。

が、その後、もう一度『思い出のマーニー』を観返す機会があり、その頃、いろいろと悩んでいた筆者は、ある種、ふと心に落ちるものがありました。「そんなに頑張らなくていいんじゃない?」映画の中でそんなことを語り掛けるシーンはありませんが、何だかマーニーがアンナが、筆者にそう言っているような気がしたんです。

この感覚は観た人にしか分からないと思います。米林監督は、アンナ世代の女の子が救われる映画を作りたかったそうですが、実はアンナ世代を通り越したアラサー・アラフォー・アラフィフの女性たち(男性も)にこそ、おすすめできる映画なのではないかと!悩みを抱えて人間の弱さにうなだれている方にぜひ観てほしい映画です。

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