ジブリで『借りぐらしのアリエッティ』や『思い出のマーニー』で監督を務めた米林宏昌監督。ジブリ退社後初の監督作品となった『メアリと魔女の花』も話題です。そんな米林監督はあの宮崎駿を唸らせるほどの才能を持っているとか。今回は、米林監督のジブリでの過去作品を振り返りつつ、新作の見どころも紹介します。
アニメ映画監督・米林宏昌とは?
米林監督は1973年生まれのまだ40代の監督。高校はけっこうな進学校出身らしく、大学は金沢美術工芸大学商業デザイン科(※中退)。ジブリ作品に感化され、1996年にジブリに見事入社!
見た目通り温厚でおっとりとした性格のようで、宮崎駿監督には度々怒られていたよう。でも、画力の凄さはジブリ内でトップだったようで、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』、『崖の上のポニョ』では原画を担当。その他の宮崎駿監督以外の作品では監督補なども。そんな中、そろそろ次世代に任せる時では…ということで鈴木Pによって大抜擢されたのが『借りぐらしのアリエッティ』。その後の『思い出のマーニー』でも監督をつとめました。
『思い出のマーニー』製作時にジブリ製作部門の解体が伝えられ、結局2014年にジブリを退社。その後、同時に退社した西村義明Pと共にスタジオポノックを立ち上げます。そこで製作されたのが『メアリと魔女の花』。ジブリの意志を継ぎつつも、ジブリの呪縛から解放された作品として評価が高い作品となっています。
米林監督のジブリ時代のアニメ―ター仕事
ジブリには多くのスタッフがいましたが、その後の消息で目立った活躍をしているのは、現時点では米林監督のみ。宮崎&鈴木両名に認められた若き才能・米林監督とは一体どんな仕事をする男だったのか…「ココがスゴイ!」ポイントをご紹介します。
『千と千尋の神隠し』原画
2001年公開『千と千尋の神隠し』から原画を担当しています。1996年入社なので入社後すぐに原画担当に抜擢されたということですね。ただ、原画担当といってもなんと35人以上存在するので、この当時の米林監督は、ごく一部を担当していたようです。千尋のお父さんが美味しそうに料理を食べちゃうシーン(その後、豚になる…)も担当したとか。
また、米林監督はその風貌とその存在感から鈴木Pから「カオナシ」と呼ばれていたそう。と言っても、カオナシのモデルではないということを後に釈明しています。
しかしながら…、この物語の中でカオナシが何を象徴しているかと言えば、「現代の若者の姿」。当時の米林監督はアニメーターとしてトップに上り詰めようと邁進していました。逆に言えばそれ以外の部分は頓着しないこともあったよう。後者の姿が鈴木Pには「カオナシ」のように映ったのかもしれません。
『ハウルの動く城』原画
2004年公開の『ハウルの動く城』でも引き続き原画を担当。ここでもまだ若手の域を出ておらず、いろんなシーンを担当したものの、宮崎監督にけっこう修正を入れられたという噂あり!どうも、感情を表に出すキャラを描くのが苦手とのこと。やっぱりカオナシだから!?
でも、ソフィーがハウルとともに宙に浮きながら歩くシーンなど、躍動感はさすがです!
『崖の上のポニョ』原画
2008年公開の『崖の上のポニョ』では米林監督のアニメーターとしての本領発揮!ポニョがフジモトの手を離れ、妹たちの力を得て海の中から宗介のもとに向かうあのダイナミックで印象的なシーンを製作したそう。最初、あのシーンの絵コンテを見た米林監督は「いったいどうやってアニメにするんだ…」と途方に暮れたそうですが、結局仕上がったものはあの出来!これには宮崎監督も唸るしかなかったそう。
『借りぐらしのアリエッティ』で監督に大抜擢!
アニメーターとしては超一流。ジブリのトップを突き進んできた米林監督。2010年公開の『借りぐらしのアリエッティ』を製作するにあたり、突然、「監督をしてみないか」と鈴木Pと宮崎監督から宣告されたそう。その経緯はいかに…?
『借りぐらしのアリエッティ』で突然監督に大抜擢!?
監督とは何か主義主張を世にぶつけたいと思っている人がなるものである…そう、米林監督は思っていたそうです。2010年公開の『借りぐらしのアリエッティ』を製作するにあたり、誰か新しい若手の監督に任せるべきではないのか、ということになり、白羽の矢が立ったのが、米林監督。でもその経緯はものすごーくいい加減なものだったよう。いわば、鈴木Pのほんのちょっとした悪戯心によって、指名されてしまったようなんです。
『借りぐらしのアリエッティ』の監督を誰にするかという話になったとき、宮崎監督は鈴木Pに「誰かいるだろう」とすぐにその場で名前を挙げることを求めたそう。でもそんな大事なことをその場ですぐに決められるはずはないですよね。ちょっとイラっとしたのか鈴木Pは宮崎監督が困るであろう名前を出してやろうと思ったんだとか(汗)。米林監督の名前を聞き、案の定うろたえる宮崎監督…。
この話は、かなり有名な話だそう。鈴木Pの言葉に一度はうろたえた宮崎監督ですが、その後、本気で米林監督を監督にしようということになり、半ば強引に二人に説得される形で米林監督は監督を引き受けることにしたそうです。
みんなが監督に協力!意外とハマった『借りぐらしのアリエッティ』
主義・主張なんてものはないけれど、宮崎監督の顔色をうかがいながらもなんとか監督業をつとめようとした米林監督。
宮崎監督とは水と油とまでは言いませんが、全くやり方も考え方も違う二人。こだわりが強く、自分が監督をする映画の全てを自分の考えに沿ったものにしないと気が済まない宮崎監督に比べ、米林監督は、みんなの意見を取り入れ、時には製作に加わらないはずの宮崎監督の意見までガンガン取り入れ…『借りぐらしのアリエッティ』を完成させちゃいました。
この米林監督の監督業は、想像以上にハマったそう。興行収入92.5億円が証明しています。
米林監督は百合が好き?『思い出のマーニー』
2014年に公開された『思い出のマーニー』の監督をつとめたのも米林監督です。この映画は、興行収入こそいきませんでしたが、海外の評価も高く、作品の完成度としてはかなり良!製作途中でジブリの製作部門の解体が伝えられるなど、大きな変革の只中で製作されたもので、それまでとは違う大きな力が働いているような作品です。
詳しい解説は置いておくとして、気になるのは、百合要素!『借りぐらしのアリエッティ』のときにもにわかに感じたのですが、どうも米林監督は艶っぽいキャラがお好きなよう。『借りぐらし…』ではさすがに宮崎監督の目が光っていましたから、百合要素は全くありませんが、『思い出のマーニー』では、宮崎イズムからちょっと逃れようと踏ん張った作品とのことで、ジブリの中で製作されてはいますが、米林監督の色が出た作品と言って良いと思います。
米林監督は、本作公開を記念して画集『米林宏昌画集 汚れなき悪戯』も出版していますが、これに描かれている女子たちも、こぞってなんかエロい!厭らしい感じではなく、女性が見てもドキッとするような憂いのある表情をたたえていたりするんです。
若き日、ダイナミックなアニメーションを得意としていた米林監督ですが、『思い出のマーニー』の製作を経験したことによって、若いころ苦手としていた人物の心情を表現する術をも身に着けたと言えるでしょう。
2017夏公開『メアリと魔女の花』ってどんな映画?
2017夏公開の『メアリと魔女の花』で話題となっている米林監督の足跡をざざっと辿ってみました。「現代の若者」と一刀両断にされていた心情表現が苦手な若者が、世にメッセージを発する立場となり、変革していく様は見事ですね。
そんな米林監督が手掛ける『メアリと魔女の花』。声優陣は、主演に杉咲花を迎え、声を当てれば必ずヒットすると話題の神木隆之介や、演技派の大竹しのぶ、満島ひかりなど個性的な面々が名を連ねます。その豪華さ以上に、見どころとしては、やはり米林監督の真骨頂であるアニメーションの素晴らしさ!その躍動感に注目してほしいと思います。
そして、ジブリを旅立ち、ジブリの呪縛から解放された米林監督が一体どんな物語を紡いだのか…ぜひその結果を劇場で感じてください!