映画ファンも支持する隠れた傑作!『プリデスティネーション』の感想と考察

ロバート・A・ハインラインの短編小説『輪廻の蛇』の映画化作品である今作。公開時はあまり話題に上がりませんでしたが、その異質な内容や構成力の高さから、映画ファンの間でジワジワと高評が広がっています。今回は、隠れた傑作とも言えるそんな今作を、感想を交えながら考察してみたいと思います。

全ての布石がラストにつながる傑作SF『プリデスティネーション』


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顔が焼けて皮膚移植をした主人公、バイオリンケースのようなものを拾い渡した人物、タイムトラベルを活用する謎の組織、正体不明の連続爆弾魔、主人公が誰かに宛てた意味深な言葉など、今作では冒頭から色々な情報が提示されますが、それら全てが布石となり、ラストに向けて徐々につながっていきます。

タイムトラベルを題材にした作品は数多くありますが、そんな中でも今作は、人物描写に焦点を当て、人間の存在意義や悲劇的な宿命を徹底的に掘り下げているという点において異質なSF作品に仕上がっています。最初は霧がかかっていた頭の中も、物語が進むにつれどんどん明瞭になっていき、最後にはこれまで味わったことのない感情に襲われます。

タイムトラベルなどのSF的要素はあくまで作品を形成するための要素の一つであり、特記するべきはやはり、登場人物が抱える葛藤。押さえどころを把握して鑑賞するのとしないのとでは、今作に対する印象は全く違うものになります。

タイムトラベルの矛盾から生まれた、過去とつながりを持たぬ者

「お前の人生を壊した男を差し出すと言ったら?」

この物語の約半分が、ある人物の過去の回想で構成されています。冒頭でタイムトラベルする主人公が属する謎の組織が登場するため、これからどんな物語が始まるんだろうと身構えるのですが、実際に始まるのは予想外の展開。

過去へ飛んだエージェントがバーテンダーに扮して働いている酒場にやって来る、ジョンという男。他の男たちとは違う雰囲気を放つ彼は、エージェントに身の上話を始めます。「私が少女だったころ」。

・・・ん?と、ここでまず疑問符が浮かびますが、そのまま話は続きます。女性として生まれ、生後すぐに孤児院に捨てられたため両親を知らないこと。他の子たちと自分は何かが違うと感じていたこと。宇宙船のクルーになるための試験を受けたが理由も分からないまま落とされたこと。素性を知らない男と出会い彼の子を身ごもったが、その相手が突然姿を消したこと。出産時に体内に男性器があることが発覚し、損傷を負った女性器の代わりに男性器が再建されたこと。以降、男として生きていること。そして、愛するわが子が誘拐されたこと。

と、ジョンの回想が続くのですが、あまり物語が発展しないため、「これは何の物語だろう?」と不思議に感じます。しかし、物語の構成自体が飽きさせない作りになっていて、また、このジョンの物語が最も重要であることが判明していくため目を離すことができません。そして、バーテンダーに扮したエージェントの一言で突然物語が発展します。「お前の人生を壊した男を差し出すと言ったら?」

自分の尾を永遠に食い続けるヘビ

「お前の人生を壊した男を差し出す代わりに跡を継いでほしい」とエージェントに提案されたジョンは、彼の後に続いて酒場の地下へと向かいます。そこにあったのは、バイオリンケースのような見た目の時標変界キット(タイムトラベルの道具)。

エージェントに連れられ、自分の人生を壊した男と出会った日に飛んだジョンは、男を探します。しかし、そこで彼は信じがたい事実を突きつけられます。彼が出会った男こそ、他でもない、未来から来た彼自身だったのです。ここから物語は急激に加速します。女性だった頃の自分と出会ったジョンは彼女と恋に落ちてしまいます。そして、彼女が出産した子どもをエージェントが誘拐して過去へと飛び、ジェーンという名前を書き残して孤児院の前に置きます。

そう、そのジェーンが後のジョンになるのです。つまりジョンは、自分を愛し、自分に愛され、自分を産んだということになります。果たしてエージェントは、何のためにタイムトラベルの矛盾からこの存在を生み出したのか?それはその後分かることになりますが、彼の存在が「自分の尾を永遠に食い続けるヘビ」=「輪廻の蛇」の中で大きな役割を担っているのです。

2人1役のイーサン・ホークとサラ・スヌークが魅せる壮大な悲劇

イーサン・ホークが演じた、自分の運命を創造する男

今作で脚本・監督・プロデューサーを務めたマイケル&ピーター・スピエリッグ兄弟の『デイブレイカー』に続きタッグを組んだイーサン・ホーク。1985年のデビュー以来数多くの作品に出演してきたキャリア豊富な彼が、今作でも絶対的な安定感を見せつつ、自分自身の運命を創造する悲劇的な主人公を演じています。

時空を超えて犯罪を阻止する航時局と呼ばれる組織に属する主人公の名前は最後まで明かされませんが、その理由は彼もまた、前述のジョンであるからです。冒頭で顔が焼けたエージェントが皮膚移植をしますが、そのエージェントがジョンだったのです。

つまり、ジョンは自分が歩む辛い人生を知りながら、しかし宿命に抗うことなく、自分が過去に産んだ自分自身を誘拐し、孤児院に置いたのです。そして男性になった後の自分をスカウトし、現在の自分に至ったというわけです。ここで物語が完結かと思いきや、まだ終わりではありません。過去の自分に跡を継がせ引退した彼は、長年追っていた連続爆弾魔=フィズル・ボマーが大惨事を巻き起こす1975年に飛びます。

そこで出会ったのが、度重なるタイムトラベルにより精神を病みフィズル・ボマーと化した自分自身でした。「俺を撃てば、お前が俺になるぞ」そう諭されるジョンでしたが、彼は未来の自分を殺す決断をします。この時、「輪廻の蛇」はその全貌を現すのです。

サラ・スヌークが演じた、過去の自分を愛した“男”

酒場にやってきて、タバコ片手にスコッチを呑む渋い男。その仕草や話し方、表情は男もウットリするほど魅力的で、本当に格好良かったです。登場してしばらくの間は、彼が女優であることに気づきませんでした。

女性の頃のジェーンと男性になったジョンを一人で演じた彼女、サラ・スヌークは、当時デビュー間もない新人に位置づけられる女優でした。しかし、その存在感は目を見張るものがあり、彼女が画面に映っているだけで緊張感が漂います。

それまで誰にも愛されず、誰も愛さなかったジェーンとジョン。彼らは宿命により出会い、そして愛し合います。過去の自分・未来の自分を愛するとはどういう感情なのか?それは想像もつかない感情ですが、サラ・スヌークはその悲哀を見事に表現していました。それも、男性の目線と女性の目線の両方で。

今作は内容そのものも高評に値すると個人的に感じていますが、彼女を見るだけでも大変な満足感を得られる作品です。

過去にも未来にも縛られない「John Doe(名もなき者)」

日本で言うところの「名無しの権兵衛」を英語で「John Doe」(女性の場合は「Jane Doe」)と言いますが、今作では主人公であるジョンとジェーンの名前にそれがそのまま反映されています。過去にも未来にも縛られることなく、輪廻の中をさまよい続ける彼はまさに「名もなき者」。

人生の目的を追い、その目的に追われるという矛盾を繰り返す彼の人生をタイムトラベルという手法を用いて描いた今作は、そんな「名もなき者」の哀しい宿命をまざまざと見せてくれます。

ラスト、未来の自分を殺したジョンが目に狂気を浮かべながら過去の自分に対して言う「お前がひどく恋しい」というセリフ。このたった一言に込められたジョン、そしてジェーンの愛と苦悩を見せられた後は、鳥肌がしばらくおさまりませんでした。

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2017.04.22





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りんく

映画やドラマを生き甲斐とする、しがないライターです。一つの出来事や概念を複数の視点から描くような作品が好きで、特にクリストファー&ジョナサン・ノーラン兄弟の作品を敬愛しています。