新ジャンル開拓!『ザ・コンサルタント』の伏線や謎を考察してみた





アクション映画でありながらも、主人公の人間性やバックボーンに焦点を当てつつ、張り巡らされた伏線を見事に回収していくという異質の新ジャンルを開拓した『ザ・コンサルタント』。今回は、そんな今作に含まれていた伏線や謎を考察していきたいと思います。

4本の軸が絡み合い、やがて1本に収束していく 物語


出典:ワーナー ブラザース ジャパン公式Twitter

今作では、休むことなく数々の疑問や謎が提示されていきます。

・冒頭でマフィアのアジトに乗り込んだのは誰なのか?
・高機能自閉症を抱える少年が会計士と殺し屋の2つの顔を持つようになるまでに何があったのか?
・引退間近の財務省犯罪捜査官が謎の会計士を執拗なまでに追う理由は何なのか?
・リビング・ロボティクス社の重役や会計に関わった人物を狙う男たちは何者なのか?
・クリスチャン・ウルフを声だけでサポートするジャスティンという女性は誰なのか?
etc…

やがて全てが繋がることになりますが、そこに向かうまでの経過が面白い。まるでジグソーパズルのように、1つ、また1つとピースが埋まっていき、ラストには最後のピースをしっかりとはめてくれます。張り巡らせた伏線を取りこぼすことなく全て回収してくれ、なおかつアクション要素もしっかりと楽しめる作りになっています。

さて、感想はこれくらいにして本題に入りましょう!まず、物語は4つの視点で進んでいきます。

1.クリスチャンの少年期回想
2.リビング・ロボティクス社の会計監査を引き受けたクリスチャン
3.クリスチャンを追うレイモンドとメディナ
4.リビング・ロボティクス社の会計に関わった人物を次々と狙う暗殺集団

この4本の軸が絡み合い、物語が進むにつれ1本に収束していきます。

2つの顔を持つクリスチャン・ウルフの“過去”と“闘い”

なぜ少年は2つの顔を持つようになったのか?


出典:ワーナー ブラザース ジャパン公式Twitter

冒頭に登場する、高機能自閉症を抱える少年。彼がクリスチャンであるということはすぐに分かることになりますが、1つ目の疑問がここで出てきます。彼はどのようにして暗殺術を身につけ、裏社会で暗躍するようになったのか?これは現在の物語と並行して回想という形で描かれます。

母親が家を出て行った後、「どのような環境でも逃げずに生きていくための術を身につけるべきだ」という考えを持つ軍人の父親により、少年は弟と共に格闘術や狙撃術を教え込まれます。その教育法はスパルタもスパルタ。甘えなど一切見せずに、徹底的に鍛え上げていきます。しかしそれは息子が生きていくためにという愛があればこそ。弟も、兄を支えながら、兄と共に鍛えられていきます。

生まれつき高い計算能力を持っていたクリスチャンはフェイクの会計事務所を開いて会計士として働くかたわら、裏社会でマネーロンダリングなどの仕事を請け負い、時には幼少時からの経験により身についた格闘術や狙撃術を駆使して暗殺の依頼も引き受けるようになります。

自身の秩序を保つことに重きを置き、質素な生活を送っている彼が、なぜそこまでして大金を稼ぎ続けるのか?という謎は最後に明らかになりますが、これが、彼が2つの顔を持つまでに至った過程です。

闘いの幕を開くリビング・ロボティクス社の会計監査

今作のメインパートとも言える、リビング・ロボティクス社の会計監査。クリスチャンとヒロインのデイナが出会うきっかけでもあります(ここでクリスチャンとデイナを恋愛関係に発展させなかったのはとても好印象でした)。

表の顔である会計士として、同社の会計監査を引き受けたクリスチャンは持ち前の能力で多額の使途不明金を発見。しかし、それとほぼ同時に社長ラマーの友人でもある財務担当のエドが謎の男たちによって殺害されます。そして、真相が判明しないまま会計監査の途中で契約を解除されたクリスチャンや、最初に帳簿の異変に気付いた財務課のデイナまでもが謎の男たちに狙われるように。

クリスチャンはデイナを守りつつ襲い来る敵を返り討ちにし、ついには黒幕のもとへと単身で乗り込みます。その黒幕こそが、リビング・ロボティクス社の社長ラマーで、彼は会社のためという名目で行っていた株価上昇のための資金洗浄を隠ぺいするために、暗殺集団を雇って関係者を排除しようとしていました。

しかし、自社が監査を依頼した会計士がまさかのハイスペックキラーマシーンで、逆に追い詰められてしまう羽目に。

この物語だけでは企業の秘密を暴くだけのありきたりなアクション映画になっていましたが、並行して他の物語も描かれているので、より謎が深まり最後まで緊張感を保ったまま観ることができました。

クリスチャン・ウルフという男の輪郭を形成する2つの視点

財務省の犯罪捜査官が追う、謎の会計士の背中


出典:ワーナー ブラザース ジャパン公式Twitter

冒頭で、銃撃戦が起こったマフィアのアジトに乗り込む1人の人物。その正体は終盤で、引退間近の財務省犯罪捜査官レイモンドであったことが判明します。そして、マフィアを1人残らず殺害したのはクリスチャンでした。彼は、刑務所時代に知り合った恩人を殺したマフィアを、復讐のために皆殺しに。

そこへ、張り込みをしていたレイモンドが乗り込んだのです。背後から銃を突きつけられたレイモンドは息子たちのために死ぬことはできないと命乞いをし、それを聞いたクリスチャンは彼を殺すことなく立ち去り、以後、情報を流してレイモンドの捜査を援助するように。

ここにクリスチャンの哲学のようなものを感じます。裏社会の仕事を請け負いながらも決して入り浸ることはせず、むしろその情報を流して捜査を有利に運ばせる。これは、彼がある目的のために仕事をしているのであり、私的な感情で動かないという人間性を象徴しています。そして、亡き父親をレイモンドに重ね合わせたのではないかとも感じます。

レイモンドが新任捜査官メディナを採用したのはクリスチャンの素性を調べさせるためでしたが、その調査過程でクリスチャン・ウルフという男の輪郭がはっきりしていくストーリー展開は本当に巧妙でワクワクしました。

暗殺集団のリーダーは何者なのか?

鑑賞中、ずっとここが引っかかっていました。なぜ、ラマーが雇った暗殺集団のリーダーを目立たせるのか?と。

その肝が据わった言動から、「こいつは只者じゃないな」「クリスチャンとの対決必至だな」という予感はしていましたが、物語の軸に組み込むほど重要な役柄にも感じられず・・・。しかし、物語が進むにつれ、ある可能性が思い浮かびました。そして、その予想は的中しました。恐らく、これはほとんどの人が途中で気付いたと思います。

ラマー宅でのラストバトル、大量の敵をバッサバッサと倒していくクリスチャンでしたが、残り数人を目前にして負傷。落ち着きを取り戻すために、幼い頃からの習慣であるソロモン・グランディという童謡を口ずさみます。それを聞いた暗殺集団のリーダーは、なぜか同じように口ずさむのです。そう、彼こそが生き別れた弟・ブラクストンだったという事実がここで判明します。

そりゃあ、目立たせますよね。強いですよね。あのお父さんに育てられたんですもん。弟もまた、裏社会で生きていたわけです。母親の葬儀に誘われなかったブラクストンはクリスチャンを責め、兄弟ゲンカをしながらも、互いに再会を喜びます。

ただただ戸惑うラマー。そしてあっさりクリスチャンに殺されるラマー。リビング・ロボティクス社の秘密が明らかになり、暗殺集団のリーダーの正体も判明し、闘いに幕が降ろされます。

モハメド・アリのジグソーパズルが最後の謎に繋がる

今作の冒頭とラストには、モハメド・アリのジグソーパズルが登場します。

冒頭、施設でパズルをしていた少年クリスチャンが、最後のピースが足りないことからパニックに。そんな時、施設に入所している、言葉を話せない女の子がピースを見つけて彼に渡します。最後のピースをはめ、真っ白なパズルが完成。驚いたことに、クリスチャンは裏返しの状態でパズルを完成させたのです。

そしてラスト、現在の施設。かつてのクリスチャンと同じように両親と入所の相談に来た少年は、遊んでいる最中に言葉を話せない女性がいる部屋に辿り着きます。その部屋には国家システムもハッキングできるほどのコンピューター設備が。その女性こそ、クリスチャンにパズルのピースを渡した女の子であり、音声システムを用いてクリスチャンをサポートしている女性・ジャスティンだったのです。

アップで映し出される、壁に飾られたモハメド・アリのジグソーパズル。

このジグソーパズルには3つの意味があると考察します。まず1つ目は、クリスチャンの才能を初見で観客に伝えること。2つ目は、クリスチャンとジャスティンの繋がりを象徴しているということ。そして3つ目は、パーキンソン病を抱えていたモハメド・アリの「Impossible is nothing」という言葉が持つメッセージ性。

この言葉こそ、今作が最も伝えたかったことなのかもしれません。物語の最後のピースを、本物のパズルで埋める・・・。なんて粋な作品なんでしょう。

さらにラストには、ある人物によって施設に多額の寄付金が寄せられていることが分かります。そう、クリスチャンが大金を稼ぎ続ける理由がここで明らかになるのです。

最後までクリスチャン・ウルフという男の人間性を掘り下げる今作の徹底ぶりには脱帽です。

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2017-03-21