リピーター続出!『ラ・ラ・ランド』を観た感想と作品の魅力を考察してみた





米国アカデミー賞でのノミネート・受賞の効果もあり大ヒットを記録している話題のミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』。たとえ話題になっていても、作品そのものに魅力がなければ大ヒットにつながることは難しいはず。そこで今回は、実際に鑑賞した感想を交えながら、今作に含まれる人気の秘密を探っていきます。

起承転結を四季に落としこんだシンプルなストーリー構成


出典:映画「ラ・ラ・ランド」公式‏Twitter

ストーリー構成の基本とも言われる起承転結。今作『ラ・ラ・ランド』は、この起承転結を四季に落としこむことにより、シンプルで分かりやすい物語に仕上がっていました。冬=状況説明、春=発展、夏=受難、秋=結末というふうに季節の移ろいに合わせて物語が流れていくため、観ている側は余計なことを考えずに登場人物たちに感情移入ができ、どんどん物語に引き込まれていきます。

事実、筆者も冒頭のハイウェイでのミュージカルシーンで心をガッツリと掴まれてからラストを迎えるまで、一度も飽きることなく作品の世界に浸ることができました。また、季節が変わるごとに「Spring」「Summer」と表示してくれるため、話の変わり目も分かりやすく、展開に乗り遅れてしまうなんて心配も不要。

あまりにシンプルすぎると飽きてしまいやすくなりがちですが、今作では物語の流れそのものよりもセブとミアの心情やミュージカルパートに重点が置かれているため、本当に惹きこまれてしまいました。そしてラスト。5年後、互いに夢を叶えた2人を再会させ、結ばれていた場合の“もう一つのハッピーエンド”を描き最後の最後で+αするあたり、この作品への愛と観客に対する心意気のようなものを感じました。

デイミアン・チャゼル監督の映画マジック

少しの妥協も感じさせない、作品から伝わる生命力


出典:映画「ラ・ラ・ランド」公式‏Twitter

物語自体も素晴らしかったですが、語らずにはいられないのがミュージカルパート。今作のすごいところは、複数人でのシーンを引きの長回しで撮影しているところです。ハイウェイで大勢が歌い踊るシーンやセブとミアが息ぴったりに歌い踊るシーンでは、クレーン撮影を行って景色を含めた全体像を映し出していました。

これは、物語の舞台でもある「ロサンゼルス」という意味と、「現実離れした世界」という意味を持つ『ラ・ラ・ランド』という言葉を映像として表現するために必要不可欠な要素だったと思います。最近は意義を問わず長回しが手放しに褒められる傾向がありますが、今作ではきちんと意味がある長回しが見られたので、しばらく鳥肌がおさまりませんでした。

それにしても、あそこまで完璧な映像を撮るには相当なリハーサルと撮り直しが行われたはず。それを微塵も感じさせずに観客を映画の世界に惹き込むデイミアン・チャゼル監督の手腕には、さすが『セッション』の監督だと感動すると同時に、わずか2本目の商業映画でここまでの完成度を生み出すその才能に恐怖すら覚えました。

年代を問わない人気ぶりにも納得できる内容

今作を観に行って気づいたのは、客層の年代が幅広く、年配の方が意外と多かったことです。夢を追いかけている若者にもこの映画の持つメッセージは響きますが、人生の選択を重ね、得たものも失ったものも多い人たちにも、何か感慨深いものを感じさせるのかもしれません。そしてもう一つ、世代を超えて人気がある理由は、クラシック映画と現代映画がうまく融合されているところだと感じました。

往年のクラシック映画が好きなデイミアン・チャゼル監督によってちりばめられた、『ロシュフォールの恋人たち』(1967年)、『シェルブールの雨傘』(1964年)、『雨に唄えば』(1953年)、『バンド・ワゴン』(1953年)など数々のミュージカル映画からの引用やオマージュが、当時リアルタイムで同作品たちを楽しんだ世代の郷愁的な感情をくすぐるのかもしれません。

と同時に、これらを現代映画の中に昇華させ、儚さを含む美しさや、映画でしか表現できない世界観を作り上げた今作には世代の違いを無に帰す不思議なパワーがありました。まさに映画マジックです。

とは言うものの、前述の作品を観れば、2倍3倍、いや何倍にも増して今作を楽しめること間違いなしです。ぜひ、違った視点でリピートしてみてください。

運命の作品と出会った2人の新境地

3度目の共演となったライアン・ゴズリングとエマ・ストーン


出典:映画「ラ・ラ・ランド」公式‏Twitter

『ラブ・アゲイン』、『L.A.ギャングストーリー』に続き3度目の共演となったライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。息ぴったりな彼らが主人公の2人を演じたのは、今作にとって何にも勝る大切な要素ではないでしょうか。当初、セブ役とミア役はそれぞれマイルズ・テラー(『セッション』で監督に気に入られた?)とエマ・ワトソンにオファーされましたが、スケジュールの都合などで両者とも出演が決まりませんでした。

そこで運命的に今作に出会ったのが、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンだったのです。監督は2人の実際の経験に基づいてキャラクター造形を練り直し、脚本も数箇所書き直しました。そこまでして作りあげたセブとミアを見事に演じた2人も、今作が人気の理由なのかも?

主演女優賞受賞を果たしたエマ・ストーンの魅力

第89回アカデミー賞において『ラ・ラ・ランド』枠で主演女優賞を受賞したエマ・ストーン。若干28歳で、それもたった2回目のノミネートでの受賞だったため、誰もが驚きました。

歌唱力とダンスがいまいち・・・という批判の声もちらほらと聞きますが、あの独特のハスキーボイスを使った歌声は耳がちぎれるくらい魅力的で、舞台仕込みのダンスも素敵でした。シビアな目を持つプロ達に認められたくらいですし。あと、屈託のない笑顔がとてもキュートです。もう一度言います。屈託のない笑顔がとてもキュートです。

このままだと「批判したやつかかってこいや」と私情を挟んでしまいそうなのでこの辺にしておきますが、それくらい、ミアとして生きるエマ・ストーンは魅力に溢れていました。個人的には「Someone In the Crowd」でドライヤーの風を浴びてる時の彼女が一番綺麗でした。

現場からは以上です。

覚醒!ライアン・“コメディアン”・ゴズリング

約3ヶ月の猛練習で習得したピアノの腕前やミュージカルパートでの歌やダンスもすごかったですが、これまでコメディの印象が薄かったライアン・ゴズリング(思い浮かぶのは『ラブ・アゲイン』くらい?)が、チャップリン映画を彷彿とさせるコメディアンの姿を見せてくれたことに一番感動しました。あの、驚いて二度見する時の表情なんてたまらなく良かったです。「A Lovely Night」での、エマ・ストーンとのテンポの良いやり取りも、クラシック映画の喜劇的な可笑しみを現代風に再現していて、これまでと違う魅力にうっとりしました。

日本で同時期に公開された『ナイスガイズ!』ではさらに振り切ったコメディセンスを発揮しているみたいなので、この2作品でコメディアンとして完全に覚醒してしまったのかもしれません。これ以上素敵になってどうするんでしょう。恐ろしい。

喜びも苦しみも、すべてが人生


出典:映画「ラ・ラ・ランド」公式‏Twitter

色々と知ったような口を利いてきましたが、とにかく今作は「素晴らしい」の一言に尽きます。死んだジャンルだと言われているジャズを核に据えた、永遠に聞いていたくなる楽曲たち。物語のトーンに合わせて変わっていく衣装や小物や照明の色調。小津映画のように計算されつくされた画面構成。シンプルかつ扇情的なストーリー。

徹底したこだわりで観る人を別世界“ラ・ラ・ランド”に連れていってくれる、本当に素晴らしい映画です。叶う夢と叶わない夢。得るものと失うもの。喜びと苦しみも、すべてが人生であることを改めて実感しました。それからラストの「Epilogue」で、もう一つのエンディングから現実に戻った2人が見つめあって頷くシーン・・・あのシーンにこの映画のすべてが詰まっているような気がします。

かつて共に夢を追い恋に落ちた2人が、それぞれの夢を叶えるために“あるかもしれなかった”未来を捨てる。再会した時に彼らの頭に浮かんだのは、同志に対する敬意のようなものなのか、再会できた喜びなのか、後悔の念なのか、観る人によって解釈が変わる2人のあの表情は鑑賞後しばらく経った今でも頭に残っています。

やっぱり映画って面白い。

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2017-12-07