通俗的意識を無視したメッセージ性や独特な作風が評価されている日本映画界の問題児・園子温監督。万人受けする作品が少ないため、「観たことないけどなんかあの人の映画苦手かも」なんて声を聞くことも。今回は、そんな園子温監督の作品をまだ観たことがないという方のために、オススメ映画BEST5をご紹介します。
記事の目次
否定的な人すらも惹きつける魔力
園子温監督といえば、その作風から問題作と呼ばれる作品が多いことで有名です。受け付けない人は本当に苦手らしく、「自己満足の世界」と批判されることもしばしば。ですが、映画が個々人の“作品”である以上、自己満足が発生するのは当たり前で、そこに含まれる意識や価値観をどこまで読み解いていくかによって楽しみ方は多様に及びます。
だからこそ、否定的な人達もなんだかんだ言いながらも、新作が発表される度にわずかな期待を抱いて彼の作品を観に行くのかもしれません。これを機に、園子温という一人の人間の頭の中を覗いてみてはいかがでしょうか。
第5位『冷たい熱帯魚』(2011年)
実話をベースに狂気を晒す
グロテスクな描写と主人公が徹底的に追い込まれるというストーリー展開で、賛否がはっきりと分かれるほど観る者を選ぶ今作は、1993年に発生した埼玉愛犬家連続殺人事件がベースになっています。
実話をベースにしているというだけあり、どこにでもいそうな登場人物たちから徐々に滲み出してくる狂気には息を呑むリアルな“凄み”があります。「グロいのはちょっと無理・・・」という人にはあまりオススメできませんが、誰もが奥底に潜ませているであろう狂気が姿を現す瞬間を見せてくれる今作は一見の価値アリです。
夢に出てきそう・・・でんでんの怪演
これまで「優しいおじさん」「面白いおじさん」といった印象を残す役どころが多かったでんでんですが、今作では主人公・社本の狂気を引き出す、邦画史上最恐とも言われる村田を演じています。何が恐いって、普通のおじさんなんです、村田が。
普通に熱帯魚店を営んで、普通に食事して、普通に人を殺して、普通に談笑して、普通に死体を解体して、普通に買い物して、普通に他人の人生を狂わせて・・・まるで生活の一部であるかのように残虐なことを淡々と行っていく姿はトラウマです。夢に出てきます。日本アカデミー賞をはじめ数々の賞レースで助演男優賞を受賞した怪演をぜひ。
第4位『ヒミズ』(2012年)
少年と少女が存在意義を自問し続ける異形の作品
ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD](出典:Amazon)
人気漫画家・古谷実の同名作を実写化した今作ですが、製作前に起きた震災を目の当たりにした監督により、設定は改変されています。物語の舞台は震災直後の日本となり、登場人物たちの設定も変えられているため原作ファンからは批判もあるようですが、1本の映画としては満足できる内容になっています。
家族に見捨てられた少年と、家族から死を望まれる少女が自分自身の存在意義を問い続けた先に何があるのか?その目で確かめてみてください。
若手2人の才能が光る
今作を語る上で絶対に外せないのが、当時18歳と16歳だった染谷将太と二階堂ふみの存在です。今作以前にも複数の作品に出演経験があったものの、まだまだ若手に位置付けられていた2人ですが、脇を固めるベテラン勢を圧倒するほどの存在感を見せつけてくれます。
「これは演技じゃなくて本物の感情なんじゃないか?」と思ってしまうくらいの、若々しくも重みのある2人のやり取り。破滅的で先の見えない暗闇の中で、ほんのかすかに光る小さな希望を見事に表現した2人を見るだけでも、今作を観る充分な理由になります。
第3位『ラブ&ピース』(2015年)
一匹の亀に人間の本質を映した寓話的作品
ラブ&ピース スタンダード・エディション(DVD)(出典:Amazon)
監督初となる特撮を駆使した今作はファンタジーでありながらも、人間の醜さを一匹の亀に映した、意欲的な風刺映画になっています。手前勝手な欲を満たすために多くの生命を犠牲にしてきた人間への皮肉をたっぷりと込めながらも、亀が巨大化するという一見するとトンチンカンな設定を活かした満足度の高い怪獣映画としてもオススメできます。
ティム・バートン監督の『バットマン リターンズ』を思い出させる下水道での物語は、クスりと笑わせてくれながら、自分の愚かさに気づかせてもくれます。
耳から離れない長谷川博己の歌声
ドラマ『デート ~恋とはどんなものかしら~』の引きこもりニートから『シン・ゴジラ』での敏腕官僚までとにかく役の幅が広い印象の長谷川博己が今作で演じたのは、ミュージシャンになる夢をあきらめ、会社ではいじめられ、まともに恋愛もできないダメダメな男・鈴木良一。
唯一の友達である一匹の亀を失った彼が成り行きで歌った、亀に捧げた歌“ピカドン”が反戦歌と勘違いされてプロデューサーの目に留まり、スターへの道を進むことになるのですが、その長谷川博己の歌声がとにかくインパクト大で、鑑賞後もしばらく耳から離れません。歌そのものは好き嫌いに個人差がありそうですが、奇をてらっていない直接的なメッセージが含まれていて胸に響きます。
第2位『愛のむきだし』(2009年)
血と性から見いだす自我と愛
園子温監督作品はグロテスクな描写と性表現に躊躇がないものが多いですが、今作は特にそれが顕著です(単に上映時間が長いからそう感じるだけかも・・・)。しかし、その“血”にも“性”にも必然性があるのでまったく嫌らしさは感じません。
親からの愛を実感できない3人の少年少女がそれぞれの形で自我と愛を見いだしていく姿に思春期の自分自身を重ねてしまう瞬間が多々あり、長い上映時間が気にならないほど没頭できます。
満島ひかりの魅力が炸裂
今や「日本で一番うまい女優」と評されるほどの実力を持つ満島ひかり。今作では、そんな彼女の女優としての黎明期とも言える時期の魅力が炸裂しています。女優の魅力を引き出す名手として知られる園子温監督の手によりその名が広く知られるきっかけにもなった今作で彼女が演じたのは、男嫌いで新興宗教に洗脳されていく少女・ヨーコ。
サソリ(女装した主人公)に恋をしている彼女の表情や、画になるアクションの数々が本当に魅力的で、今作で満島ひかりのファンになった人も数えきれないほどいるはず。今は見ることができないこの時期だけの魅力を、ぜひご堪能ください。
第1位『地獄でなぜ悪い』(2013年)
娯楽性を追求したアクション快作
地獄でなぜ悪い スタンダードエディション [DVD](出典:Amazon)
監督自らが自身初の娯楽作と位置付けた今作は、ヤクザ、映画監督を目指す男、ひ弱な青年がなぜか一本の映画の撮影のために殺し合いを繰り広げるという、あらすじだけ聞いたらもう何が何だか分からないハチャメチャな内容ですが、見終わった後にはスッキリした気分になるアクションエンターテインメントに仕上がっています。
笑いもしっかりと盛り込まれていて、でも最後にはちょっとホロっとしてしまう、不思議な引力を持つ映画。園子温監督作品を未見の方には最もオススメできる作品です。
今をときめく役者陣が大暴れ
前述の長谷川博己、『逃げるは恥だが役に立つ』で国民認知度が一気に上がった星野源、話題のドラマや映画に引っ張りだこの二階堂ふみなど、今作では今をときめく俳優たちが三者三様のポテンシャルを発揮しながら暴れ回っています。
公開時にはまだ世間一般に知られていなかった彼らがこの短期間で大きく出世したのを見ると、やっぱり園子温監督ってすごいなあと唸ってしまいます。ラストシーンの長谷川博己の姿は特に印象的で、夢を持っている人は心を打たれること間違いなしです。
一度だけ、騙されたと思って観てみてください
いかがでしたでしょうか。園子温監督定番の血みどろからファンタジー、娯楽作まで、バラエティに富んだ作品群。一度だけ、騙されたと思って観てみてください。意外とのめりこんでしまうかもしれませんよ。
これら以外にも、最近では『新宿スワン』や『みんな!エスパーだよ!』などの商業志向映画も手掛けているため、そこから始めてみるのも良いかもしれません。より深く映画の世界に浸るきっかけにしていただけたら幸いです。